「春菜」

ビニールの紐は、ものを括ったり束ねたりするには、丈夫で良く締まり、使い勝手を考えれば文句のつけようはない。
しかし農家育ちの私は、正月の飾り物などにビニールの紐が使ってあるのには違和感を覚えるし、色のついたのは尚更敬遠したくなる。
米を作る農家には、稲藁があり、その用途は多く、特にモチ稲藁は、丈夫でしなやかであるから、藁細工などに重宝される。冬、その稲藁を打つ音を霜の朝に聞くのは、凛々と冴えていて好きだった。だがもうそんなのを懐かしむのも遙かな話しだ。
百草園の間さんから「ゆうき」の表紙絵を、と話があり軽く引き受けた。さて何を描くか考えながら配達された籠を覗く。残念ながらあまり見映えのしない野菜達だが、描きたくなった一束があった。
それはチンゲンサイということだが小さく根本は白く肥えていて、淡い緑が美しい。それに束ねた稲藁の切り口が冴えていて、絵心をそそった。
宮崎静夫


作者の横顔
1927年生れ。満州、シベリアを経て、絵を描く。人間風景「ドラム缶」。戦争体験による「死者のために」を描き続ける。
編集者より・宮崎静夫氏にこの1年、春から冬4回の表紙絵を描いていただくことになりました。

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