6年目を迎えた有機JAS制度

生産者から見たJAS


有機JASは救いの手
キッチンガーデン 西山正一

わたしはいわゆる「新規就農者」です。
  野菜を作り始めて困ったことは、わたしがつくったものを誰が食べてくれるか?どうやって生計をたてていくか?ということです。安全でおいしい私の野菜といっても、よくいう「顔の見える関係」「永年培われた技術と信頼関係」と無縁で、無名の生産者の野菜を誰が信用して食べてくれるのか? 世の中に「無農薬野菜」「有機野菜」の明確な基準がない、と疑問、不信が百出している時に、有機JAS制度は私にとって文字通りの「救いの手」でした。「生産情報の明確化」「第三者確認」という制度の仕組みによって、私の野菜を食べてもらう、検討してもらうスタートラインに立つことができたのですから。
  以降、私は新規就農者に必ず有機JAS制度に取り組むようすすめています。いろいろな問題が指摘されようと、それが厳しい農業現場で生計を立てていくための手段、方法として有効なシステムと思うから。


少量多品目の私達にとって・・
本田農園 本田信代

  有機農産流通センターへ農産物の出荷を始めてから「熊本いのちと土を考える会」の生産者になるまで30年間、消費者と提携活動をすることで有機農業を続けてきました。有機認証は主人が熊有研の担当理事を4年ほどしていたこともあり、私も生産者として会員さんに今以上安心して食べていただきたいという気持からはじめました。
  しかし、少量多品目栽培する私達の有機農業は、申請作業も大変で認証取得した事で注文が増え、本業の牛の肥育と生協出荷に少なからず影響を感じましたので、残念ながら4年で申請を取りやめました。
  ただ認証はやめても、今後も有機農業は続けていきます。ですから、熊有研での4年間の活動の中で培われた、他の会の生産者との交流、新しい有機農産物の取扱業者達との出会いなど、とても有意義だったと思っています。



有機JASの良い点と欠点と
有機の会 飯星幹治

■有機JASを受けて良くなった点
1) JAS有機の取引の話が多くなってきた
2) 以前は有機の基準が曖昧で統一したものがなかったため基準ができて良かった。
3) 業者を中心にJASの認知が出来ている。 ■欠点
1) 70代、80代という有機の基礎を作ってくれた方々が記録に追われ、農業を楽しむという視点がなくなってきた。
2) 生産行程の記録及び出荷記録だけなら当然の仕事であるが、格付けの記録(※注1)が面倒である。
3) 有機JASの認定が始まって以来、外国産の有機が目立ってきており、国産有機のものが増えている実感がない。
■お願い
1) 有機JASの認知が消費者にされてきたという実感がない。農水省を中心に宣伝すべきである。
2) 審査員(※注2)は有機の生産者を育てる気持持ちをもって審査しないと有機の生産者は育たない。
3) 最近消費者保護の観点から農業に対しての縛りが多く、自給率をはじめ農業者を育てる観点が特に少ない。
※注1「格付の記録」
JAS制度では誰でもがJASマークをつけて良いわけではありません。講習を受けた担当者(生産者本人であることが多い)が、農産物や製品がJAS規格や自分のルールに則ったものかどうかを確認し、JASマークをつけます。その確認の結果を記したものが格付の記録です。
※注2「審査員」
JAS制度では、農林水産省に認定された審査員が現地に出向き、栽培が適切に行われているかどうか、書類と実地の確認を行います。


消費者から見たJAS


身近なスーパーで買えないか
  JASマーク入りの商品は安心して購入できます。しかし、その反面値段も跳ね上がり、興味があっても買えないというのが私の周りの現状です。もっとJASマークというものを浸透させるには身近なスーパーでリーズナブルな値段で販売できないものかと。
会社員 女性
まだJASより販売所の信頼のほうが
  調味料や加工食品を買うときは、裏の原材料などを読むのですが、JASが付いているとお墨付きという感じで安心です。私の周りにも、最近は安心な食材を選びたいという人が増えています。(特に出産直後のママさんなどに多いです。)ただ、JASマークを知らない人も多く、それを意識して買うというより、生協で買う、オーガニックな店で買う、道の駅で地元のものを買う等、販売所の信頼度の方が高い感じがします。
自営業 女性
見つけるのが難しい
  地元近辺のスーパーや野菜直売所を視察したがJASマークの有機野菜を取り扱っているところは少なかったので見つけるのに苦労した。値段は一般的な野菜と比べてさほど差がないようだった。もっと有機栽培が増えれば売場のスペースが拡大でき消費者にアピールできると思った。
DJ  竹下健太
流通から見たJAS


有機で儲かる八百屋が広がることで安全も広がる
(株)米島 代表取締役 米島 信一

  弊社は昭和24年から、大阪の阪神百貨店で野菜売場のテナントとして営業をさせていただいております。昭和57年ごろ百貨店側より「有機野菜」の取り扱いをするように要望され、今日まで、有機野菜・果物を販売してきました。当時は「有機」の定義もなく、農家や流通業者さんの言葉を信用して販売してきました。
有機の基準ができて
  さて今日のJAS有機につきましては、まだまだ問題点があるとはいえ、一定の決まりが作られたことに対しては評価しております。
  ただこのJAS法が日本全体の青果物をより安心、安全なものに導く法律かということに関しましては、残念ながら程遠いものと感じております。人が日常当たり前に口にする青果物を、いちいちこれは安全かどうか考えながら販売しなければならないこと自体、情けないことです。
大産地から消費地への流通がもたらす農薬
  戦後の青果物は大産地から消費地への大量供給が大きな柱となり、青果物は見た目のきれいさで選別されてしまいます。きれいさを追求すれば農薬は欠かせない。このことは青果物の生産、流通、販売に携わっている者は誰でもが認識していることです。利益を追求するのが至上命題の現状では、分かっていながら手を出せない分野が、有機の生産、流通、販売。理由はたったひとつ「儲からない」からです。
安全が当たり前の八百屋へ
  私は、八百屋が売っている野菜や果物は安全なのが当たり前という昔の八百屋を作りたいのです。そのためにはどうすればいいか、難しいことは解りません。要は、米島は八百屋ですごく利益を上げている、米島の真似をしたら利益が出ると言われるような、新しい青果物の生産、流通、販売形態を作り上げること。儲かるモデルを作り上げること。そしてみんなが真似をしてくれることによって、結果、青果物の安全性が自然に高まると思っています。
  小さな八百屋がなにを生意気なことを、と笑われるかも知れません。けれどこれが私に与えられた仕事、そして夢です。仕事を通じて夢を追えることの喜びは、どのように表現したらよいのか分かりませんが、この立場を与えていただいた皆様に感謝して、これからも新しい流通を創造して行きたいと思っています。