硝酸イオンの低い農作物を目指して

真田さんが30歳の頃、傾斜地にある農地で耕作面積が狭く効率が悪いという条件不利地域の山都町三ヶにおいて、どのように農業を営んでいくかということが課題だった。当時の矢部町農協組合長・佐藤あきお氏の有機農業への取り組みや、矢部町農協参事であった村上栄一氏が隣の集落で松葉会(生産者14人ほど)を立ち上げ、有機栽培の家庭菜園を少し広げて有機農産物を出荷するという取組みの影響で、真田さんの集落でも日南田会という有機出荷グループができ、有機農業に取り組むようになったと言われる。
真田さんが会長をされる「有機の会」ではここ数年、土壌分析、太陽熱養生処理、緑肥利用など技術力を上げ、慣行農法なみの収量を上げるための技術研究や勉強会などを開催されている。安心安全は当たり前で、作物の鮮度、味を追求して栄養価値のある、硝酸イオンの低い農作物を目指している。
太陽熱処理は部長の田中さんが試験されデータも残されており、とても有効で効率的な技術で、生産者へも少しずつ広がっているようだ。
有機農業の課題として生産性が低いという問題があるが、有機農業を普及させていくという取組の中で収量を上げ生産性を高めていくことは必須であることを実感した。また栄養価や機能性についても、有機農産物はほんとうに栄養価が高いのかということを数字で消費者にわかり安く説明することも今回の調査で重要だと感じた。

<栽培品目>
◆年間生産計画

水稲102.9a  野菜144.8a(品目ごとの面積は年毎に変わる)
御船、甲佐:250a 矢部:50a
得意な作物はニンジン。オーガニックフェスタ2014栄養価コンテスト硝酸部門(硝酸イオンが少ない)銀賞受賞

<圃場環境>
畑:砂壌土、黒土 田:砂壌土
上が砂で下が砂利のような田んぼの方が水がしっかり入れ替わるので米がおいしくできる。
御船は標高100m未満の平地。矢部は標高300mの中山間地。

<土つくり>
緑肥:畑の草をある程度伸ばして、ラクト菌を入れて鋤込む。

<施肥>
その畑の土壌の特徴を知り、わからない部分は土壌分析するなどして施肥の量を決める。
使用資材はうぐいす有機で(豚糞、牛糞、鶏糞が入っている資材)300~500kg/10a使用。パワーオルガ有機(魚粉などが入っている資材)はミネラル分の補給で使う。その他に燃焼灰(鶏糞を燃やしたもの)を使用している。土壌分析して足りない成分を入れるという考えで、土壌分析機は「有機の会」のものを用いている。
施肥時期は種まきの20日前。追肥はほとんどしない。畑を乾燥させるとニンジンが硝酸を吸ってしまうので、土づくりによって畑を乾燥させない工夫をしている。
有機農産物を機能性の面で科学的に分析した時に、機能性の高い農産物であることを証明できるように、生産した農産物の糖度、硝酸イオン濃度、ビタミン量など、食味検査をしている。
硝酸をあげないように栽培している。硝酸が下がれば糖度は高くなる。糖度10を目指し生産している。甘い栄養価の高いニンジンは色がきれい。悪いニンジンは切ると中が白かったりする。

<種>
自家採種はジャガイモのレッドムーンのみ。レッドムーンは原種に近いので比較的種取りし易い。

<苗>
きゅうりは自家育苗。接木はしない。他は自家用の白菜、キャベツくらい。
用土はそよう有機床土を使用。
定植時の工夫
定植前に2~3日枯れない程度に水切りする(苗に水を与えない)。ちゃんと土づくりして保水力のある畑に植えれば根が水を求めて動き、活着がよくなる。雨が降っていたりで水分があると根が動かない。植える時はできるだけ晴天時を選ぶ。

<雑草対策>
太陽熱養生処理
8月上旬に施肥した後、畑に水分がある程度ある状態で透明ビニールで約10~14日程度被覆。積算温度600~900℃が目安。 にんじんは除草が大事な作業なので、太陽熱処理は雑草対策に有効。また病気にもかかりにくくなる。

水田はジャンボタニシ。

<病害虫対策>
矢部は猪、鹿の被害が増えてきた。昨年は8畝ほど猪の被害にあった。雨の日に電柵が漏電して電流が弱くなった時に入られる。猪は頭が良く、あともう少しで収穫という時期に田んぼへやってくる。中山間地の深刻な問題となっている。

<流通・販売>
全量有機の会に出荷。真田さん自身が有機の会の会長。「有機の会」は個人宅配が主だが、県外生協、レストラン等100社ほどの取引先を持つ。今後、こだわりの農産物を加えて販路拡大していきたい。