科学的姿勢で取り組む大規模有機稲作

もともとJAの営農指導員をしていたが、昭和60年代には瓜類を中心として水田ごぼう等の野菜や花、果樹等の産地化も一応の成果を上げて、安定した状況であった。しかし主食である米については減反政策で低迷していたことから、何とかしなければならないという思いが強くなっていた。
平成元年のJA合併頃から、これからの米作りは安全、安心が重要だという考えに至り、その時出会ったのがEM菌によるボカシを使った農法であった。
お茶を始めとして白菜、人参、ナス、キュウリなどの野菜から水稲までその効果に驚き、色々な批判はあったが同調する農家を募り、JAの集荷所でボカシ作りを始め、兼業農家として4年間の有機実証栽培を行い、JA退職後、専業農家として本格的な有機栽培に切り替えて今日に至っている。

<栽培品目>
現在は水稲専業で、借地を含めて426aを有機で栽培し、内256aが有機JAS認証田である。他に現在ほ場整備中の田が50aと畑31aがある。
水稲栽培はウンカを避けるため、5月20~25日には種、6月29~30日に田植え、10月5~20日に収穫するような作業日程で行う。

<圃場環境>
小川さんの地域は、菊池川流域の平坦水田地帯(標高40m)で、土質は、水田は埴壌土、現在ほ場整備中の地区は火山灰土である。

<土づくり>
農業を始めた頃は、土壌中の腐植含量を何処まで上げるかが課題と考え、10%程度を目標に、最低でも7%以上にするつもりで、ダンプを借りてJAの堆肥舎や畜産農家の堆厩肥を運んだ。未発酵の畜産堆厩肥の場合は、籾殻やワラ等を混ぜて発酵させて、大量に投入した時期もあったが、畜産堆肥をそのまま使うと米の味が落ちたり、野菜に苦みが出たりしたので、現在は稲ワラと緑肥(ナタネ)、畦草の鋤込みの他に、籾殻くん炭やEMボカシで土作りをしている。
先ず、田植え2ヶ月前の4月上旬に荒起こしを兼ねて畦草とナタネを鋤込む。次いで5月下旬に10a当たりでボカシ200kg、籾殻くん炭5立方メートル、ケイカル(粉状)200kgを投入している。
ボカシ作りは、冬場の仕事としているが、毎年8~10tを3日程度で作る。
米ぬか6tと魚粕(牛深産)4tを数回に分けて、水分40%程度(サラサラよりやや多く)になるまで EM活性液を加えながらユンボで混ぜ合わせ(5~6回)、あらかじめ用意しておいたドラム缶やコンパネボックスに詰めて密閉し、半年くらい寝かせておく。
ボカシの散布は、石灰散布機を利用している。

<施肥>
施肥は、EM活性液を中心に施す(70~100ℓ)。昨年までは追肥にオーガニック742を使用していたが、今年からはさらに、使用量、時期について検討したい。
施用の時期は、田植え直後、葉数5~6枚の7月初めと、10枚で、幼穂形成期の8月、粒数が決まった頃の9月の3回に水口から流し込むようにしているが、肥料切れを起こすようなことがあれば適時もう1回ぐらい施用することもある。EM活性液をほ場に施すのが大変であったが、現在はバキュームカーを利用している。

<育苗>
育苗は、自宅横の水田で、赤土に3年ボカシ(3年ほど寝かせて味噌のような色に変わったボカシ)を3:1で混合した床土を利用しポットで育苗する。
苗床をならし、#600の寒冷紗を敷いて、その上にポットを5列並べ、さらに#600の寒冷紗で被覆して育苗する。寒冷紗は、は種後12~14日で除去する。
種子は、ポット育苗の場合は10a当たり1.2kg(1升5合位)程度である。

<雑草対策>
ジャンボタニシがいるお陰で、ほぼ一人で4ha以上の省力栽培が出来ている。
小川さんの地域では4月1日頃から活動を始めるが、坪あたり1匹で十分に除草してくれる。どうしても多すぎる傾向があるので、ほ場を均平にならしておくことが大切である。次いで荒代を空けないこと。代かきして2日位で田植えし、走水程度の浅水にして活動を抑える。1週間程度で活着したら徐々に深水に移行する。この間の管理を上手く行えば、大規模栽培に役に立つアイテムである
ジャンボタニシは、水が無ければ移動できないし水が多ければ活発に活動するが、イネが生長し硬くなれば食べない。草が無くなれば自ら水に浮いて水流に乗って下流域に移動し、密度を保っているようだ。

<病害虫対策>
特には、何の対策も取っていない。
土作りのために投入している珪酸苦土石灰(粉状)の効果でもあると思われるが、茎葉が硬くなり病害虫に強いイネになっているようである。また、有機ほ場にはクモが沢山繁殖しているので、トビイロウンカやツマグロヨコバイ、メイ虫などの食害もほとんど無い。
クモは、7月頃から増えて、8月には全面に広がっている。慣行ほ場にもクモはいるが、消毒するほ場では、大きさも繁殖密度も全く違う。

<流通・販売>
販売については、流通業者向けが約80%、縁故関係者や地域内などクチコミで広がった消費者向けが20%程度である。地域的には、熊本市と地元を中心とした県内が40%程度で60%くらいが関東、関西向けと思われるが、販売については苦労しており、安心して委託できる流通組織を求めているのが実態である。

<他>
有機農業をやる上でも土壌分析を行い、科学的な管理が必要だと思う。腐植含量や土壌成分を分析して、堆肥を入れ、レンゲやナタネなどの緑肥の利用など対応する事が必要である。
新規に有機農業に取り組むと、最初は良いが3年目頃に大きく減収し、回復がなかなか難しいという3年目のジンクスをより早く克服するためにも科学的な管理は重要なことであり、数多くの先輩農家に学ぶことと併せて実行して行くことである。