乾田直播で省力イネ作りに挑戦!

以前読んだ乾田直播の記事では、除草剤を使うことが前提のような書き方がしてあった事を思い出し、その乾田直播きに無農薬で取り組む事は大変なご苦労があるのだろうと感じた。このやり方が確立されれば、苗床を作らない、より省力の無農薬イネづくりとして認知されるだろう。しかし、全ての水田がこのやり方に代わるというより、乾田直播が向いている周辺環境や条件がある所で、生産者の選択肢が増えるという事ではないだろうか。
技術面もさることながら、最も時間のかかる仕組みづくり(ひとよしアイガモ農法研究会・1993年から有機JAS農家5軒、有機JASに準ずる栽培農家4軒)に所属し、グループで有機農産物を販売することに大きく貢献されている点にも頭が下がる。更に、無農薬米を販売する仕組みの中にJAが入るようにされている点が、すごい事だと思う。学生の頃から先進地への視察など活動的にされていたからこそ、意識も高く、市役所に勤めながら、仕組み作りに地道に取り組むことで、地域農業に貢献しようというご自身の方向性が早くから定まったのではないだろうか。

<栽培品目>
品目は水稲と家畜用の飼料作物。水稲と飼料作物を輪作しているわけではない。水稲は乾田直播方式による。品種は、以前はヒノヒカリだったが、現在は高温障害に強いニコマル。

<種>
イネは全て自家採種。脱穀後、半分は籾摺りするが、残り半分は籾のまま保存する。翌年の種になるのは、この籾のまま保存されているものの中から取り出される。自家採種だと遺伝子組み換えの品種ではないのが確かなので続けている。

<土壌環境>
火山灰土の割合が高い土質で、水はけがよく、乾田直播をやりやすい。

<肥料について>
・自家製堆肥
堆肥は牛ふんにもみがら、廃菌床を混ぜた2年ものを使う。家で牛を2、3頭飼っていた頃は足りていたが、1頭になってからは堆肥が足りないので、他の農家さんから分けてもらうようになった。
古代天然苦土とカキガラ石灰を使っているが、それらを使うようになってから品質が良くなった。主に元肥として使用している。施用時期は春先(4月)で、量は約60kg/10a。年によっては古代天然苦土を追肥で使うこともある。
購入した微生物資材も使用している。冬場(1月)に施用し、量は14kg/10a。

<乾田直播の作業行程> (2013年実績分)
前年11月:牛ふん堆肥散布。
4月:カキガラ石灰、古代天然苦土を散布。
5月中旬:播種作業、ローラー機械による鎮圧作業(10日ほどで発芽確認)。
播種量は5kg/10a程度。
5月下旬:1回目の中耕除草。乾田除草機(3条)を使用。
6月10日ごろ入水開始。苗が10cmくらいになる頃が目安。
6月中旬:2回目の中耕除草。水田除草機(6条)を使用。
6月中旬:アイガモネット、電柵、漁網、テグス張り。
6月下旬~7月上旬:ヒエの手取り除草(1回目)。
9月上旬~中旬:ヒエの手取り除草(2回目)。
9月下旬:稲刈り。半分はバインダーで稲刈りし、さお掛け。半分はコンバインで稲刈りし、すぐに乾燥(もみで収納)。
10月中旬:掛け干ししていた分を脱穀し、籾摺り。

<乾田直播のメリット>
①育苗、代かき、田植え作業が不要。
②田植え作業がないので根を切ることがなく、倒伏しにくい。
③収量も従来の田植え方式と比べて大差はない。おおむね反当り6俵から7俵。
④直播方式のほうが田植え方式より食味が勝るという実証データがある。実際、粒張りもよく美味しく感じる。食味向上のためのミネラル資材、水管理など工夫している。

<乾田直播のデメリット>
ヒエとりに手間がかかること。ここ2年は早目の除草で草取りに要する時間も短くなってきた。

<雑草対策>
乾田直播は前述の通り省力化のメリットがあるが、いちばんのデメリットはヒエとりがたいへんなこと。ヒエだけは手取りで行うしかない。
・播種前の作業
播種前は3回のロータリー耕起。今のところ技術的には深水にするくらいしか雑草対策がない。段取りよく早めの草取りを心がけている。
・乾田用に除草機の使用
発芽確認後、入水前に乾田除草機(歩行型・3条)による除草を行う。乾田除草機は畑作(野菜)にも使用できる。アイガモを入れる前の6月中旬ごろ、水田除草機(乗用型・6条)による除草を行う。
・アイガモの管理(2013年実績分)
5月下旬:育雛の準備
6月上旬:田んぼの一角で育雛開始
6月中旬:アイガモ放飼と同時に入水開始
8月下旬:アイガモ引き上げ

<病害虫対策>
昨年(2013年)が、これまでで最もウンカの被害が大きかった。収量は平年より1割くらい減った程度だったが、くず米の割合が少し増えた。
最近気になりだしたのが、葉に黄斑が出るごま葉枯病。品質を大きく損ねるものではないが、気になっている。普及所の人によると、「ごま葉枯病は水田の土壌が老朽化し、鉄分不足になることが原因で発生する。荒毛さんの栽培法は麦播種機による乾田直播きで、耕起する部分が表層になってしまうため、土壌の老朽化が進みやすく、ごま葉枯病の一因になっているのではないか」と言われたので、今年は深く耕起し作土層を厚くした結果、発生はあまり見られなかった。

<鳥獣害対策>
カラス対策はテグス、爆音器を使用。アイガモは油断するとイタチにやられる時もあるので、電気柵で対応。シカ、サル、イノシシ対策については、大面積で行う場合、国の補助がある。