半不耕起栽培で自然米

水稲の半不耕起栽培に成功されており、非常に興味深かった。稲本さんが実践されている5cm以内の半不耕起栽培(「土づくり」参照)は、肥毒層を触らずに段々と根を張らせるという技術で、品質、収量も安定しており、理論として納得できる技術でとても参考になった。
現在は息子さんという後継者もでき、自分の技術を高めながらその技術を一般化し、広めていきたいという想いを語られ、自然栽培へ対する取組の熱心さが伺えた。今後、若い人やこれから自然農法を始める人に自然農法の技術を理論的に説明できるように指導していきたいと言われる。

有機農業をはじめたきっかけ

果樹試験場で勉強していた時に、ある先生の脱線授業の中で「米偏(こめへん)に健康の康は糠(ぬか)、米偏に白は粕(かす)」玄米は白米より健康に良いという事を教わり、大きな衝撃を受けたこと、就農後の4Hクラブの活動で自然食の講演を聞いて感銘を受けた事の2つが、自然農法の取組の原点になっている。
まずは自分の米を変えたいと思い10aから始めた。自然農法で作った米を自分だけ食べることに父譲りの正義感に反すると感じ、消費者にも供給できるよう面積を広げていった。5年目くらいに30aに増やして、3回くらいガンズメで除草したり、ウンカで全滅するなど、大変な思いをしながらも、自然農法の技術を確立していった。

<栽培品目>

米580a(うち140aは酒米)・収量 6~7俵/10a  里芋・じゃがいも15a

 

<土づくり>
自然栽培なので堆肥は使わない。稲わらは枯れてから鋤込んで農地還元する。寒い風に土をさらすのが良い効果があるので、田んぼを耕うんするのは寒い時期にしたほうがいい。春に耕すと草が伸びてしまって枯れにくいし、耕しにくい。半不耕起で、表層5cmを耕すため、荒起こし→中耕→代かきまで短い爪のロータリーで耕うんする。
水田の表層5cmしか起こさないことで、肥毒層(一般的に慣行農法では理解し難いだろうからグライ層に近い意味と言っておこう)を触らないから、普通3~5年目に来る禁断症状がでない。結果、稲の病害中が発生しにくい。秋ウンカの発生も殆どない。その結果、収量も品質も安定している。また自家採種の強い種とポット苗の根の強さで直根が毎年同じところを通り、年数を重ねる毎に肥毒層に穴を開け、その数を増やし、しだいに肥毒層を崩していき(肥毒層解体論とでも言っておこう)段々と根が深くはっていくようになる。

<施肥>
自然栽培なので無施肥。肥料をやると虫や病気が入る。畑は肥毒層(肥料成分が溜まっている層)を壊すためにソルゴーや燕麦などの緑肥を利用し、刈取って枯らし、鋤込んで腐植として利用している。

<種>
・米
品種:アキタコマチ(自家採種10年目)、ヒノヒカリを植えていたが10年前に高温障害が出て変えた。3年前から富田親由さんの自家採取15年のヒノヒカリも作っている。酒米:吟のさと(山田錦×西海222号)78cmの短稈品種
自家採種のポイント
種を取るほ場だけ、背の高さ、登熟の速さなどを揃えるために、不適なものは取り除くなどして、同じ性質の株から種とりして管理する。穂が立っている時に3回水田に入り抜穂する。
・じゃがいも
品種:男爵薯、キタアカリ 自家採種 一部自然栽培の種で試験中
・里芋
品種:蓮葉早生(自家採種)

<苗>
床土:山土
育苗期間:30~35日
田んぼに並べて根を張らせるので栄養分は田んぼからもってくる山土のみでも可能。
みのる苗(苗箱35枚/10a)
面積が広く、田植え時期が長くなるので、3回くらいに分けて種播きする。

<雑草対策>
水田の除草はジャンボタニシ。ジャンボタニシ除草は水管理が重要。最初は干したり、水を入れたりし、浅水から段々に深水にしていく。1~4月の天気の良い日に3~4回、表層5cmをワイドハローで耕すと大きなジャンボタニシは相当傷ついて死に、カラスもジャンボタニシを獲るので数が丁度良い位になってきている。
畑は手取りと管理機、刈払機による。

<病害虫対策>
稲本さんによれば、肥毒層を触らないことで、、普通3~5年目に来る禁断症状がでないので、稲の病害の発生が出にくい。秋ウンカの発生もほとんど無いと言われる。

<流通・販売>
出荷先:サンスマイル、渡辺商店、ピュアリー、個人販売、(株)東光、瑞鷹(株)
米:約3万円/60kg
販路開拓は殆どしていない。むこうから話がくることが多い。玄米で出荷。瑞鷹との契約で自然農法の酒米を作っている(崇薫という名前)。八代、熊本、京都、東京の酒屋で販売している。片野先生が中心となってどぶろくを作って持ち寄って飲み比べする会から、本物の酒造り(1村1酒運動)が始まった。