熊本市託麻原小学校の農業体験

▼熊本市託麻原小学校の農業体験を受け入れている矢部有機農業協議会(田上明会長)は、矢部周辺の有機農業10団体、生産者約120名で構成されており、それは地域の農業者人口の1割程度にもなります。このような地域をあげての取り組みは、全国的にみても貴重で先進的なものです。その一部が今年度の農水ホームページに紹介されることになりましたので、コンピューターをお持ちの方は是非ご覧下さい。
▼矢部と託麻原小学校との交流は1999年から始まり5年目となるそうです。始めは1クラスのみの参加だったのが、2年目からは1学年全員の学年行事に昇格し、今年まで続いています。
▼教師やお世話係りの保護者をいれると、200名近い人がバスを貸し切ってやってくるわけですから、受け入れの大変さは半端ではないはずです。農業を体験したことのない生徒に農作業を指導するだけでも、多くの生産者の協力が必要でしょう。川遊び、竹細工の体験なども企画されていますから、その内容を充実させるためには地区のボランティアの協力も求めないといけません。そのような中、一昨年前から矢部の御岳西小学校の5〜6年が先生となって託麻原小学校の生徒の稲刈りを指導しています。受け入れ側の大変さをプラスに変えるその発想はどこからくるのでしょうか?稲刈りの時の子供達の交流は今も手紙などで続いているそうです。
▼協議会に参加している矢部有機農業研究会会長の藤本完一さんに「何故、直接売り上げにつながらない、大変な農業体験の受け入れをやるのですか?」とお聞きしました。
「矢部のすばらしさと、私達のつくる安全な農産物を知ってもらいたいという気持ちでやっとります。」「誰かがふんどしを締めあげてやらんと、新しいことは何も始まらんですけん。」「ここには、それをやろうという馬鹿な仲間がおりますもん。」と柔和な笑顔で答えられました。矢部を愛する気持ち、農業を子供達に伝えるよろこび、百姓としての自信が伝わってきます。
▼託麻原小学校のこの活動は「わくわくタイム年間活動計画」という総合学習の一つです。今年のテーマは「栽培を通して、人の良さにふれ、未来を見つめよう」というもので、「食・農・暮らしを一体のものとして学ぶ」という食農教育では必ずしもありません。

子供自身による野菜栽培の経験と、矢部での農作業体験で目指すものは「人とふれあい、自分の未来を開く目をつくる」ということなのかもしれません。
年間学習の第1回目は「野菜を植えよう」ということで、子供達が自分たちなりに植えたい作物を選び、育て方を学習します。全く農業の知識のない子供達からは、夏野菜のナスやキュウリだけでなく、気候風土に合わないリンゴやイチゴ、そのはてにはパイナップルを植えたいなどの意見もで、子供達だけで作った夏の畑は完全に失敗するわけです。そうなんです、大人が全く手を出さない畑は、完璧に何も実のらなかったのです!そこで、矢部で本物の農業を体験し、農家の技術の凄さ(種から芽がでるとか、途中で枯れないとか、虫がいても育つとか、そんなことなのですが)にふれ、自分たちの失敗をプロの農家に聞き、土を作り、大根、白菜、ほうれん草、人参など季節あった品種を選び、秋の栽培に再挑戦します。また、教室では有機農家の生き方を聞く機会もあり、そこでの田上明さん、今村英史さん、中村司郎さん、原田幸二さんの話は、まるで「熱い情熱を抱き、使命感に燃えて事業を実現させてきた無名の日本人を主人公とするテレビ番組、プロジェクトX」のようだったそうです。
矢部の農家で、田植えや稲刈りをしながら子供達が学んだものは、自然とふれあう楽しさだけではなく、農家のプロの技術の凄さ、ひたむきさ、生き方だったのです。農業体験と交流で、受け入れ農家の「地域を愛する気持ち、農業のよろこび、百姓としての自信」は確かに子供達に伝わっていました。
この総合学習は更に「自分のまわりにも凄い大人はいるのではないか」と発展し、自分の将来を見つめる所まで行くのだそうですが、その紹介はまたの機会とします。

 最後に、子供達の作った米は「美郷米」と名付けられ、子供達の手で袋詰めをされ、バザーで販売されました。

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