有機農業リサーチプロジェクトとは

まとめにかえて・座談会!

多くの皆さんの協力で、やっと熊本で始めての有機農業の調査と分析を終えることが出来ました。集まった多様なデータを前に、さてどうまとめようかと、連日の作業で加熱した頭で考えたのですが、どう頭をひねっても、一人の意見でまとめるのはもったいないし、出来るものではないと思えてきたのです。それに、企画から係わった企画委員の皆さんも、もっと語りたいことがありそうです。そこで、座談会で思いのたけを語ってもらい、それをまとめの代わりとすることとしました。今回の調査で何が生まれようとしているのか、読み取ってください。

なお、企画委員として共にこのプロジェクトを進めてきた片野學先生(東海大学名誉教授)が10月に逝去され、今回の座談会には参加がかなわなかったことをこの場でご報告させていただきます。結果をともに分かちあうことが出来なかったことが、残念でたまりません。

座談会 日時:2014年11月9日(日)13時~17時
場所:熊本県有機農業研究会事務所

<座談会参加者>

  • ・青木悦朗さん 熊本県有機農業研究会理事長
  • ・飯星幹治さん 熊本県山都町 町議会議員 有機農家
  • ・鶴田志郎さん 株式会社マルタ 代表取締役会長
  • ・間 司さん 有機無農薬の「百草園」経営
  • ・畠山裕一さん 熊本県有機農業研究会・技術部会部長
  • ・兼瀬明彦さん 調査員
  • ・古閑三恵さん 熊本県農林水産部生産局農業技術課 参事
  • ・司会/間 澄子 熊本県有機農業研究会理事
  • (事務局/間 澄子 河村サトミ)

予想以上の広がりと経営の安定

司会:さっそくですが、今回の調査の目的にたいする自己評価を、 青木理事長から口火を切っていただけますか?

青木:予想以上に有機農業が安定した技術として広がって、 かなりの方々が取り組んでおられるということが見えてきたと感じています。

司会:何が予想以上だったんでしょう?規模ですか?技術ですか?

青木:ある程度安定し広がり始めているとは感じていましたが、4町5町とか、10町栽培されている方が予想以上に多かったですね。売上も、2000万、3000万、5000万という人たちが出始めてますから、有機農業も慣行農業と同じレベルに来てるんじゃないかという気がしてきました。

司会:有機農家の売上分布のグラフを見ると、普通の農家の売り上げ分布とそんなに変わらない?

古閑:でも有機農家の場合、売上400~500万円台の真ん中の部分は落ちてますね。普通に言うと真ん中が高い曲線を描くのが一般的かと思うんですが、慣行のデータを見てみないとわからないです。

司会:ということは、有機の場合、二極に分化しているっていうことですね。

青木:売上の多い人の中には、慣行農業じゃ経営的にやっていけないので、有機農業で差別化して、良いものを作って、高く売って経営を安定させようとしている人もいました。

司会:昔は農薬被ばく等から有機に転換した人も多かったんですが、転換する動機が昔と今でかなり違い始めてきたいうことですね~。山都町は有機農業では非常に古くからの地区ですけど、そのあたりはどうですか?

兼瀬:自分は山都町の猿渡ですけど、条件不利地なので土地の効率性も悪いんです。そういう所で、価格変動が少ない有機農産物に取り組んできたのは、経営安定を1つの目的としたっていうことだと思います。

司会:山都町の場合、小規模農家が多いのかと思っていたんですが、データからみると実際は2~3町の中堅農家が地域を維持されているという数字になってます。広い面積で営農されている人は、山都町から平地に下りてきているでしょうか?それとも山都町で基盤整備が進んでいるんでしょうか?

飯星:多くの有機農家が御船、甲佐等に下りて、規模を拡大しています。山都町だけで農業を経営するというのは、厳しいですね。ただ、水稲をよそで作っている人はいないなー。

補助金が生きる場合は・・

飯星:有機農業を始めた頃は県に有機農業推進室があって、アイガモ電柵なんかへの補助金が500万円出たんですよ。その時、アイガモ農法が10町から40町に広がりました。一番効果の高かった補助金だと思ってます。湯前でもアイガモに半額助成をつけて広がってますよね。でも、アンケート回収で回ったら、有機農業の直接支払い交付金が出はじめたのに、申請してない人がずいぶんいました。

間:そうらしいね。今年、申請をやめた人もいるんじゃないですか?去年までは耕作地の確認は農家台帳でよかったのに、今年から環境保全型農業直接支払い交付金は農家台帳を根拠にしてはいけないと言われて、借りたほ場それぞれに委託契約書や書類を出さないといけなくて、大変!水田活用の直接支払い交付金は農家台帳が基本で耕作者確認しているのに・・・。有機への補助金は年々とりにくくなっている。

有機農業の技術・太陽熱処理について

司会:最近の傾向だと思いますが、太陽熱処理、土壌分析、肥料計算をしている事例が多く報告されています。こういうのはいつから始まったんでしょうか?

飯星:そーなー、去年ぐらいからかな。積算600℃位まで上げて土壌中の菌を増やすと息子が言いよる。

青木:冬場でも積算温度600~900℃に上げるという他の報告書を見ていて、太陽熱消毒は雑草を処理するとか、菌を「殺す」ためにやるんだと思い込んでいたことに気づきました。慣行農法だと「殺す」だけど、有機農業は「増やす」という視点の違いです。良い菌を増殖させて悪い菌を抑える!!

司会:視点の違いというか、根本的な違いでしょうね。「太陽熱養生」とも表現されていたけど、それならイメージがわきますよね。
米の有機栽培が広がらない理由は雑草だと言われてきたけど、田んぼの雑草はジャンボタニシとの共存で手間がかからなくなって、有機の大規模農家が出てきていますよね。アイガモは、最後に殺すのが嫌、ネットを張る手間が大変ということで、もう一つ広がらなかった。
野菜栽培の雑草対策はまだ大変だから、太陽熱処理で雑草を抑えることができたら、野菜の有機栽培が広がる可能性があるかもしれませんね。

古閑:聞き取りの部分で、土作りの部分がもう一段発展形がいるのかなあという気はします。田畑に入れる資材は聞きとりやすいから、報告書にはでてきているんですが、目の前にある畑や作物がどういう状態になった時を自分は「良い」と思ってるのか、そういったところが聞き取りで必要なのかと思いました。
司会:昔は、畑に竹の棒を突き刺して、何メートル入ったかで、土のふかふか度をアピールしたりしてましたよね。でも「元々ここは1mぐらいすぐ入る土だけん」とか言って、あまり信頼されてなかった(笑)。

畠山:物理性であったり、微生物の多様性であったり、あるいは農産物の栄養の部分の分析で、土づくりは見えませんか?

間:百姓は土ができたかどうかは「ほうれん草が出来るようになったら大丈夫」って言う。(笑)

青木:そういうニュアンスでもいいと思うんですよ。物理性が云々かんぬんって話しになってくると、えらい難しいです。

飯星:さっき太陽熱処理の話をしたじゃないですか。同じほ場で、自分がする所と息子がする所を分けたんですが、息子が養生処理をした所は棒が1mはスーッと入る。自分が作っているところは入らない。全然違いますね。

司会:エーッ!耕うんが同じで、竹の棒が入る深さが違うということは、菌の働きの違いということですか?

飯星:太陽熱処理はそれだけ効果があるっていうことでしょう!3週間の太陽熱処理で、初めて玉ねぎの良いのが出来たけんですね~。

みんな:おもしろーい。

飯星:違うのは間違いない!例えば、俺が作るほうれん草と、息子に「ここをして」ってお願いをして、太陽熱処理をして作ったほうれん草を比べるとやっぱり息子の方が出来がいい。

司会:どういうふうに違うんですか?

飯星:しっかりしてる!シャキッとしてる!夏のほうれん草はぼそっとするじゃないですか、冬場のほうれん草ってシャキッとひらいてくるじゃないですか。そういう感じの違い。

司会:太陽熱処理をして非常に手をかけたニンジンと、あまり手をかけず自然のストレスをかけたニンジンとどっちが美味しいだろうと思って食べ比べたことがあるんですけど、自然界のストレスをかけたほうが味が深くて美味しいのかなあ~って思ったんですけど、どうなんでしょう?

飯星:俺もどっちかっていうとそう感じでいるんだけど、周りの人の意見は、俺が作ったんじゃなくて息子が作ったニンジンに「あんたのとこのニンジンは違う」っていう(笑)。

司会:飯星さんところは、太陽熱処理のために張るビニール養生の広さはどれくらいですか?

飯星:たぶん、2反か3反。

司会:それぐらいが限界のごたーっ。「家でもしてみようよ」って言ったら、「畑にそぎゃんビニールば張るのは大変たい」って言われた。

飯星:俺たちは数でこなさんといかんけん、ビニールを張るのはめんどくさいんですよ。夏場に10日も太陽熱処理のために間をあけるというのは、もったいない。だから、全部の作物でそこまではやれんだろうっていうのが、俺の感じ(笑)。

畠山:でも土がよくなることは確かなんでしょ?

青木:一般的に考えて1~3週間とかでそうなるっていうのはどう考えても・・・どういう仕組みだろうって(笑)

司会:だから、普通の人は「嘘だろう」ってなる(笑)。

土づくり

間:昔はまず堆肥を入れるのが基本だったよね。最近はそれが基本ではなくなってきてませんか?。

飯星:そうなー。俺たちの時代は、まずは販路を作って流通を広げんといかんかったから、そこまで農業技術を言ってる時間がなかった。今は、流通は安定してきたから、技術を進めていける。もう、息子のほうが技術は上だと俺は思うとる。

鶴田:今回の調査で、土づくりや堆肥とか、基本になる部分をもう少し掘り下げて聞き取ってほしかったと思いますが、基準をつくる最初の調査としては上出来ですよ!!
全体の感想になりますが、自然農法関係というのが、がんばっている気がするんですけど。堆肥も含めて肥料的なものをやらないでも経営が成り立って、収量が安定してるという事例が多いっていうことは、ほ場から取り出したその肥料分は返さないといけないっていう、今の農業技術の考え方に突きつけられた問題点じゃないかと思いますね。それに対する全く違った考え方があって、経営も軌道に乗りつつあるということですよ。慣行農法が肥料を入れすぎているということに加えて、化学肥料を入れると土の中の微生物が働かなくなって、自然が作り出していく肥料分をおさえて、かえって肥料不足を起こしているということが言われはじめてますから。

司会:アンケートを見ると、自然農法といっても、全く肥料分を使っていない人がそれほど多いわけではないみたいです。特に米以外は、なんらかの肥料は使っている人が多いと感じますが。

畠山:稲や穀類は水や雨からの天然供給でできるという考え方がありますけど、野菜の場合はもっと複雑かな~。

間:それと…技術の観点からだけじゃなく、流通の付加価値として「何も入れない」ことを前面にだしている場合もあるようだし、動物性は不浄だというようなイデオロギーも影響してるのかもしれない…。そうすると、農業の技術から整理するという発想と違うから、分からない点がでてきますよね。

兼瀬:確かに今回は、肥料を全然入れないということについては、聞き取り調査報告の中にあるような説明が限界かと思います。責任があるから、「こういうやり方をしています」ぐらいの紹介しか今はできないのかなって…。それを県に検証してもらったらいいですね。

司会:鶴田さんは自然栽培をされているんですか?

鶴田:いえ、自分ではしてないんですけど、全国的に一番元気がいいというか、やめる人があまりいないというか…。

古閑:最初想定していたように、皆さんそれぞれで色々やっている事例が数多くでてきて、聞いて回ると「同じような技術が根本にあるんだろうな」というのが想像できて、そこから先がきっとあるのだろうなと考えているところです。除草と土づくりでどういうことをしているのか、いい微生物をいっぱい増やすという考えの土づくりがベースになっていて、それにはどういうことをやっているのかという作業がこれから先なのかと思います。とりあえずここで終わって、ここから先はこの中からエキスを拾い上げて、研究所あたりでそれを普遍的に「こうなっているから良いんだよ」と言える方向性にもっていけないかと思っています。

畠山:聞き取り調査の中では、土づくりは、ぼかし肥料を作っている、堆肥を分析する、あるいは土壌調査をする、そういうのを言われましたね。

司会:分析ですか…。土壌分析で土壌の団粒性も分かりますけど、基本は窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)やマグネシウムとかの成分分析じゃないですか。有機農業の土作りは菌との共生なので、それを数値にする方法がないということですよー。

畠山:でも~、土壌分析でも可給態窒素を見れば、微生物の影響を受けて有機化したものが無機化していく過程がわかるので、有機農業における土作りとリンクするんじゃないかと、僕は思ってます。

間:最近は、植物は有機物をそのまま吸収する領域があると言われ始めてますけど、実際に有機をどういうふうに吸収するのか、微生物がどう働いて吸収されていくのかというようなことが説明出るようなレベルまではまだいっていないですよ!

司会:昔、片野先生が自然農法のフィールド調査をされた結果を見せてもらったんですけど、完全に肥料を入れなくなって何年かは一応収量は安定なんだそうです。でも5年目ぐらいでパタッと下がる。その間がそれまでの残肥の力だろうと書かれてました。その後は5俵~6俵くらいで安定するんですけど…。だから5俵か6俵くらいが肥料をやらなくても、自然の循環の力でできる量かな~と思ったのですが。

鶴田:自然農法をやっている人も私たちも感じてるんですが、5年に1回ぐらいぱぁっと収量が落ちる年があるんです。それは肥料の累積でも残肥でもなく、何故か、私は説明できない。

青木:反収は江戸時代ぐらいまでは4~5俵だったと聞いています。非常にアバウトだけど、自然農法でやっている人たちの収量はだいたい5~6俵ですよね。有機JAS関係の人だと6~7俵ぐらい。一般の農家でも10俵取れる人は稀であって、だいたい8俵半ぐらい。
県全体では、稲作の平均耕作面積は7反半か8反です。機械から何から全部経費として計算したら、10町か15町作らないと見合わないといわれてるのに、平均は7反半か8反だから、お米作りは明らかに赤字です。それでも「近所に迷惑はかけられないので作り続けてる」といわれてますが、生産者価格が1万円切ると、それももう出来ないだろうっていうことですよ。だから七城とか泗水みたいにほ場整備も出来ているところで5~7町作って、経営として有機農業に転換していく人たちがかなり増えてきているということではないかなと思っています。

司会:だったら、やっぱり有機の技をきちんと伝えないといけないですねー。

次の段階に向けて

司会:それでは、この調査を終えて、次の段階に向けてどのような動きや取り組みが必要なのか、ご意見をいただきたいと思います。

飯星:まず、仲間を増やすことです!近場の拠点をたくさん作り、それぞれの拠点から広げていくことが大事たいなー。それと、今回の調査で、「有機農業をしてるから米を作れるけど、米価が1万円を割るような状況では、もう作れないな」っていう声をよく聞いたんですよ。このままいけば、農家は米作りをやめて、荒れ地が増えるでしょうね。だから、農地法を改正して、街の人も自給用の米は自分で作れるような仕組みが必要じゃないかと。それでも都会の全ての人が作るわけじゃないから、米農家の販売先はあります。人の数よりイノシシの数の方が多くなった現状への対策は、人を増やすのが一番!多くの人が村に来て自給の米作りをすれば、村の問題を幾らか解決できるんじゃないかな~。

古閑:今回の調査で元になるデータベースができたので、この中から皆がやっている技術をどのようにやったら上手くいくのか、指導につなげられるところを磨き上げて、整理していくってことになると思います。まずは米からかな。次いで野菜がくるか、果樹はどうするかとか、検討が必要でしょう。米は姿が見えてきてるので、最終的には有機農業のマニュアルなどの形が必要かなと思います。それから、消費者にどうPRして、協力してもらうかですね。有機の生産量が増えれば、それだけ売り先が必要になってくるわけだから。

青木:技術的には、試験場であるとか普及員や専門技術員の皆さんに取り組んでもらえるような体制を整えて、平準化を図るために一般の耕種基準にあたるような形のものを作ってもらう方がよいと思います。また、われわれ熊有研に対する要望の中に、農業技術に関する研究をすべきだっていう要望があったこともあって、皆で集まって技術的な交流とか情報交換とか、研修会なんかの開催を検討すべきだなと思いました。

鶴田:今回の調査報告書は、全国的にも最先端をいくものだと思ってます。これから5年、10年先を見越した研究体制は、国や全国でも始まっていて、普及に繋がる研究体制づくりをお願いしないといけない段階です。すぐに取り組めて実現可能なのが、堆肥の品質基準作りじゃないでしょうか。最近は堆肥の必要性と土作りが言われてますけど、NPKとか微量要素がどうだということで土壌を捉えてきたことから一歩進めて、土壌微生物の生態とか働きを勘案して、堆肥と土作りのマニュアル化の研究を進めることが必要だと思います。

間 :この調査の最大のテーマが、有機農業の技術を体系化するということなので、僕は自分たち自身の自己研修に利用したいですね。熊有研が始まった頃、技術研修とかほ場見学なんかもよくやってたんですけど、だんだん自分たちグループの中でやるようになって、集団的に蓄積されることがなくなってたんです。近ごろ、新規就農者が年に数十人と増えてきているので、彼らの自立を促すためにも、今回の調査結果を利用していきたいと思います。もう一つは、鹿児島の有機担当の普及員がやっているように、今回の報告内容を材料にして、実践的な技術として研究を深め、地域に広げられるようにまとめてもらえたら良いなと思います。
それから今後の課題として大きいのは、販売と流通をどう広げるかでしょうね。これまでは、売れた人が生き残れたということかなと思うんです。県内での有機農産物の地産池消をどうすすめるのか、生協やJA、渡辺商店のような取り組みとか、成功した事例の検証とか研究も必要ですよ!

司会:ご指摘のように、今回の調査では生産者がどんな販売をしてるかは聞き取りましたけど、流通側からの視点は取り上げてません。生協がとった戦略、JAの方針、提携はどうやって増えてきたのかとか、全く手を付けていません。

飯星:生協や生産者団体などの販売は、最近頭打ちだと思います。新しく取引を持ちかけてくる業者は、競争の一環だから怖いですよ。

鶴田:確かにこれまでは、流通業者は「高品質の均一なものを大量に継続して供給する」ことを求めてくるから、有機農業の取り組みでは対応が難しかったけれど、これからは、それに応えるような体制ができ始めてますよ!アメリカでは、大手のスーパーとかで20%~50%も有機農産物が並ぶようになって、有機農産物で特色を出していかなければ、生き残れないという危機感を持って取り組んでいるというのに、日本ではなかなかそうならない。

間 :レストランの中には、季節や収量が限定される有機農業を理解して、農産物に合わせたメニューを出すところも出てきてますよね。有機農家と提携している消費者が季節の野菜に合わせて食生活を変えるようになったのと同じようなもんです。
それと、普及員の皆さんの集まりに呼ばれて行ったときに女性が多いのにびっくりしました。普及員さんが有機農業を広めていくときに、技術の普及だけではなく、食べ方や食養などもいっしょに普及したほうがいいと思いました。

司会:生活スタイルが変わるくらいに食べ方を変えないと、今の若い人達に地産地消を推進するのは難しいのかもしれませんよ~。最近の若い人は料理を作らないから・・・。

鶴田:アメリカではオーガニックが広がっているのは医療費が高いからだと言われます。ヨーロッパでは有機農産物を買って農業を支援しないと、環境はよくならないんだっていう意識が国民の間に浸透してます。日本の場合は、すべての農産物が安全だっていう考え方が、農水省を含めてJAまで強いんです。その上で、有機農産物は特別のものだってことで雛壇に上げられてるのが実態かな・・。

畠山:農家のみなさんが、有機農産物に含まれる栄養素や微量要素から有機農産物のおいしさを強調されていたんですけど、土壌分析も含めて、現状の中でできる分析を広範に行って、慣行栽培の農家にも理解できる形でまとめられたら良いなーと思います。

間 :それと、微量要素の補給に、今は捨てられている道路畦畔とか河川の野草とか、地域資源を上手く使って、堆肥化することもひとつの方策だと思いますね。

兼瀬:自分は、技術的な部分をピックアップして、科学的な分析を含めて内容を深めていきたいです!

河村:私は太陽熱養生や微生物、細菌とかそういうのを利用した技術には本当にびっくりしました。おもしろいですね~。かなりの広がりを持っている山都町の状況なんかも大学とかに持ち込んだら、研究テーマとして取り上げたいと思う学生も多いと思います。

司会:そうですよー。山都町は熊本の有機農業の中でも、行政やJAも巻き込んだ先駆的活動をしていて、有機農業者もダントツに多い地域なのに、その価値に気がついてないように見えるのは非常にもったいないですもんね。山都町の地域全体でやってきたことを、有機農業を活かした地域づくりとして情報発信して、もっと発展してほしいと思います。

飯星:山都町は、有機農家が県平均の10倍存在するということですけど、本当に地域みんなのお陰です。これを活かせなかったら山都町の住民は半減して、寂しい町になる恐れがあるから、何とかせんといかんと思います!!。

古閑:山都町へのアイガモへの助成金みたいに、良い場所とタイミングで助成すると助成が活きるんですね。地域の人がまとまって取り組んでくれれば助成金も活きてきます!

司会:まだまだ話はつきないようですが、時間がきてしまいました。今日は、それぞれの立場から、自分の実践にもとづいたご意見をありがとうございました。意見を言われるみなさんの楽しそうな表情をみていると、私も頑張らねばと思ってきました。熊本で営まれているたくさんの有機農業の事例と実態を広く発信して、今後の発展に役立てていただけるように報告書をまとめあげたいと思います。本日は有難うございました。

「有機」なのに有機と言わない?!
~生産者も有機の理解が混乱している~

文責・間澄子

今回のアンケート調査の中で、田畑の面積を尋ねる項目があり、そこに①有機実施、②うち有機JAS、③環境保全型農業、④慣行栽培と、4つの区分で耕作面積を記入するよう求めましたが、有機の田畑のはずなのに、環境保全型として記入されている回答が多く見受けられたため、事務局が電話で確認をしなければなりませんでした。

有機農業推進法の基準で見れば「有機」に間違いないのに、生産者は何故「有機」ではなく、「環境保全型」と選んだのでしょう。「環境保全型」の方が「自然農法」も包括する広い概念だと思うのでしょうか。それとも、「有機JASをとらなくても売れるから、面倒な有機JASはとっていない。アンケートではどう書いていいか分からなかった」「自分の農法は有機より優れているから『有機』と書きたくない」などの理由もあるのでしょうか。

「無農薬・無化学肥料」
「減農薬・減化学肥料」の表示は禁止

「食品表示に関するアンケート調査」(総務省平成14年)から、「無農薬・無化学肥料」の表示は、「収穫前3年間以上、農薬や化学合成肥料を使用せず、第三者認証・表示規制もあるなど、国際基準に準拠した厳しい基準をクリアした『有機』の表示よりも優良だと誤認している消費者が6割以上もいる」ことがで分かりました。そこで、消費者に正しい理解が得にくい表示として、農林水産省の特別栽培農産物ガイドラインにおいて「無農薬・無化学肥料」の表示が禁止となりました。同じように、「減農薬・減化学肥料」の表示も、削減の比較の対象となる基準が不明確、削減割合が不明確、何が削減されたのか不明確で、消費者にとって曖昧で分かりにくい表示として禁止されています。

自主基準の乱立は15年前に逆戻り?

消費者理解の混乱が先か、生産者の混乱が先か分かりません。しかし、「環境保全型」「無農薬」「無化学肥料」「自然農法」等の方が、栽培方法の公的基準がないにもかかわらず、安全で環境にも優しいというイメージを消費者が持っていることが、生産者が「有機」ではなく「環境保全型(無農薬・無化学肥料を含む)」と書いてしまうことに影響を及ぼしているように思えます。また、流通関係者が、自分の扱う商品を差別化するため、「有機」ではなく、他の表現をしようとすることも影響しているのかもしれません。

15年前、「パッケージに有機と書くと売れるから」と、多くの野菜の袋に「有機○○」と書かれたものが市場に出回り、消費者が混乱しました。そのことへの対応として「有機JAS」の表示基準が法制化されたはずです。法制化から15年。「有機JAS」も少しずつ広がっていますが、それを越す勢いで自主基準が増え、混乱が広がっているようです。

行政の横断的対応と関係者の連携が必要

これらは、有機農業推進法、有機JAS規格、地域の政策(くまもとグリーン農業等)、各団体の掲げる栽培方法(自然栽培 炭素循環農法他)など、さまざまな基準が他の基準と結びつくことなく独自に表現され、国や行政単位での横断的な政策も実施されてこなかったこと等が原因の一つではないかと推察します。

有機農業を広めていく上で、農業者や消費者、流通関係者等の連携は必須ですが、今後の妨げになりかねない農業者間のずれが今回の調査で浮き彫りになりました。

水稲有機栽培の販売実態と経営について

文責・青木悦朗

熊本県下全域で栽培され、わが国農業の基本とも言える水稲について、今回の調査(アンケート452戸、聞き取り数64戸)で見えてきた販売実態と経営について整理した。

1.熊本県における水稲有機栽培の形態

今回のアンケート調査回答者の中で、水稲の有機栽培に取り組んでいる農家は304戸であり、1戸当たりの有機栽培面積の平均は125aであった。また、経営規模を見ると0.5ha~1.0haが32%(96戸)と最も多く、ほとんど(90%)の水稲栽培農家は2.0ha未満であるが、5.0haを超える規模の農家も11戸存在し、最大規模は13haであった。

2000年農林センサスによる経営規模0.5ha以下の農家は、県全体で16%であるが、有機では30%を占めている。

このことは、農業後継者がいなくても安全安心な自給自足の生活を続ける高齢農家と、新規就農希望者の中に目立つ、生業を別に持ちながら農業に取り組もうとする、いわゆるライフスタイルと しての農的生活を目指している人達に通じる部分といえるかも知れない。

2.水稲における有機栽培の特徴

主要栽培品目1位を米とした有機農業実践農家は、品種や種子にこだわる人が多く、古代米や旧来の品種など多彩であり、自家採種または知人採種の種子を使っている人が52.5%、有機由来の種子購入が10%となっている。

慣行栽培と比較して、有機栽培で問題となる栽培管理に除草対策があるが、水稲の有機栽培では、ジャンボタニシやアイガモの利活用により労働時間を短縮している。また、直播きとアイガモを組み合わせたり、大型機械を導入するなど、除草対策の工夫により大幅に労働時間を短縮し、規模拡大へつないでいる農家も存在した。

病害虫については、アイガモや田植え時期の調整、天敵利用などにより問題を少ない状態にしている。

栽培技術の聞き取り調査を行った64戸の農家の中で、収量や販売価格について調査に応じていただいた10戸の農家の収量は、510kg~180kg/10aまでばらつきがある。10a当たりの収量は、有機JAS認証農家の平均が450kg、自然栽培農法と言われる方の平均が345kgであるから、平成25年産米の10a収量502kg(平成24~25年度熊本県農業動向年報)に比べて90%および69%となっている。

※小売米価は、総務省「小売物価統計」東京都の数値で、生産者米価は農林水産省公表資料(22まで)と熊本県産の全農相対基準価格(23以後)とした。

3.有機農産物の販売状況

有機栽培農産物は、その成り立ちから消費者や消費者グループへの直接提携販売が主体であったが、本県の米の場合は、その量の多さから生協やJA、卸業者などを中心とした販売から始まっている。一方、有機栽培面積が大きい農家や後発の有機農業者は、これらの流通事業者に加えて直売所や消費者への直接販売、小売店、加工事業者、インターネット利用などへも広げて複数の販売チャンネルを確保している。

販売価格は、1kg当たり335円~675円とばらつきがあるが、内容をみると、籾摺り後30kg袋詰めで流通業者へ一括引渡しの場合は、酒米など例外もあるが335円~500円/1kgくらいが一般的のようである。消費者向けの場合は玄米も精米もあり、袋詰めも1kg~30kgと様々であるが、玄米換算で500円~675円くらいで、小売価格よりやや高いものの安全、安心と環境の保全および生産性の問題などを考慮すれば、消費者にとっても十分に受け入れられる価格だと思われる。

4.有機栽培水稲の経営評価と可能性

有機農業の栽培技術も、実践技術として確立され、省力化されており、また、安全、安心にこだわった農産物を理解し、認めて協力してくれる消費者や流通事業者への説明努力を始めとして、直売や流通コストの節約など地道な販売努力をなされてきたことから適正な販売価格を得る事ができ、結果として10a当たり169,000円~270,000円ほどの粗収入となっている。

有機農業の生産費調査データがないので、九州農政局の平成24年生産費調査でみてみると、慣行水稲作の場合、10a当たり収量465kg、粗収入111,936円、生産費(副産物差引)104,464円、支払利息・地代・自己資本利子等参入生産費124,515円を差し引けば△12,579円となる。これらの名目費用と家族労賃等を除外して算出した場合の生産費75,692円で計算しても、差引所得としては36,244円ということであり、このような中で収益性を改善し、再生産を可能にするためには販売価格の底上げとコストダウンは避けられない。現在の慣行水稲栽培では、生産費を賄えない状況にあり、農外収入や複合経営で補塡する方法も限界となり、各種の助成金で収入をカバーしてようやく経営が成り立っているといえる。

一方、有機農業で考えてみると、先に述べたように栽培面積も慣行栽培と変わらない規模に育っており、生産コストはむしろ低く抑えられていると考えられるが、有機農業の10a当たり粗収入169,000円~270,000円から、前記の家族労賃等を除外して算出した生産費75,692円を差し引けば、93,308円~194,308円の実質所得となり、優位性があることが見えてくる。

有機農家の方々