菌との共存「太陽熱処理(養生)」
一般の農法では、土壌消毒剤を使ったり、ほ場の全面を透明ビニールで覆って地温40℃以上を長期間確保することで、土壌病原菌やセンチュウ類などの土壌病害虫を防除しています。
有機農業では、同じような方法ですが太陽熱消毒とは言わず、「太陽熱処理」や「太陽熱養生」と表現します。稲ワラや米ヌカ等、微生物が好んで分解する有機物を圃場に散布し、ビニールを全面に張ることで地温を確保して発酵を促し、「土ごと発酵」の状態にする方法です。土壌の団粒構造の促進により根張を改善し、光合成能力をあげます。また、「悪い菌」は比較的熱に弱く、「いい菌」は強いという傾向を利用し、「いい菌」を増やし「悪い菌」を抑えます。雑草や土壌病害虫の抑制にもつながります。
太陽熱による地温上昇のみで殺菌する場合通常は40度で20日間以上必要だといわれますが、白いカビが表面に生え、微生物が急増して発酵熱が十分に加わるような場合は、いい菌による病原菌の増殖抑制効果も得られ、処理期間が10~14日くらいですむという人もいます。
今回の技術調査では、積算温度を測る方法や、苗床で黒マルチを張る方法などが報告されています。
ジャンボタニシで田んぼの除草
①ジャンボタニシは自分の殻の高さの水深がないと活発に動けません。その特質を利用し、田植後まだ 苗が小さい間は「ひたひた水(超浅水)」にし、ジャンボタニシを動けなくして苗を食害しないようにし ます。
②田植後15~20日、苗が丈夫になったのを確認し水を溜めます。ジャンボタニシは一斉に草のある ところに移動していき、柔らかい雑草を食べてくれます。
今回の技術調査では、多くの方がジャンボタニシを利用して除草を行っていることが報告されていま す。ジャンボタニシの数は、1m²に2個以上いれば除草効果は十分とも言われています。田んぼの状態 をみて判断してください。 慣行栽培農家でも利用者が増え、除草剤を使用しない人が増えているとも言われます。
(参考・環境稲作研究会)
稲のポット苗
苗作りは、稲作において苗半作と言われるぐらい重要 ですが、有機稲作においてはポット苗を使う人も多い ことが、今回の報告から見えてきました。 ポット苗による苗作りは、普通のマット式の苗箱では なく、セル式苗箱で 20 センチ以上の大きな苗を作り、 粗植をし、風や光を通すことで丈夫な稲を作るという 方法です。 ただし、苗箱、田植え機ともに、ポット苗専用のもの が必要となります。
※みのるポット苗のホームページより
※苗箱育苗は幼苗で定植できますが、ポット育苗は中苗で定植するので育苗日数が長くかかります。
天恵緑汁(発酵液肥)
天恵緑汁は、身近にある植物を利用して簡単につくることのできる、自然の精気が旺盛な酵素液。乳酸 菌や酵母菌が豊富なので、作物だけでなく土壌微生物にも良いものです。500 倍や 700 倍に薄めて使いま す。
夏みず田んぼ(夏期湛水)
麦作で問題となる帰化雑草ヒメアマナズナ、クジラグサ、グンバイナズナ対策として、夏期に2ヶ月間の常時湛水とする圃場管理を行うと生存種子を1%未満に減らすことができます。
方法)小麦収穫後に代かきをして常時湛水管理すると、雑草種子の生存割合は1ヶ月間の湛水では10%程度となるが、2ヶ月間の湛水では1%未満になり、埋土種子を大きく減少させることができる。
参考1)小麦収穫後に畑条件で管理すると、越夏したヒメアマナズナ、クジラグサ、グンバイナズナ種子は、おおむね90%以上が生存種子(休眠覚醒種子+休眠種子)で、死滅した種子は1割程度にとどまる。
参考2)小麦収穫後に代かきをして短期入水を繰り返す(3日湛水、4日落水)管理とすると、2ヶ月間処理しても雑草の生存種子割合が0~90%と効果が大きく変動する。短期入水の繰り返しは防除効果が不安定である。
(参考・長野農業試験場報告)
冬みず田んぼ(冬期湛水)
冬みず田んぼ農法は、その名の通り、冬の田んぼに水を張る農法。そうすることで、菌類やイトミミズ、 カエルなどの多様な生物を息づかせ、それらの生物の営みを活用し、天然の肥料、雑草の抑制、害虫の 防除などの効果を得て、農薬や化学肥料を使わずに安全、安心な良質な米を生産し、人間と自然の共生 を可能にします。
冬期の湛水は 12 月~2 月まで水をいれます。開始時には土づくりのために 10a あたり米ぬか 60kg とく ず大豆 50kg を散布し、湛水水深 5cm を保持する。米ぬかやくず大豆を入れた土では、イトミミズの活動 が活発になり、柔らかい表面土壌(トロトロ層)が形成され、雑草の種子を土中に埋め込むことで発芽 させにくくする効果もあると考えられています。
(参考・環境省 生物多様性のホームページより)
合鴨農法(アイガモ水稲同時作)
アイガモが雑草をとって害虫を食べるだけなく中耕までやってくれ、期待以上の働きをする農法。田 植えの6日後に生後2週間のアイガモを放すと、小さなアイガモが水面を泳ぎ動き回りはじめます。カ ラスや獣などから襲われるのを防ぐため、田んぼ全面に電柵やテグスを張るなどをしなければいけません。
アイガモは泳ぎながら水田を掻き回し、除草はもちろん、水田内に酸素を供給するとともに、常に水 を濁らせて水温を上げ稲の成長を助けます。稲についている虫を食べるだけでなく、アイガモが動くこ とで稲に接触刺激を与え、茎太で、株張のよいしっかりとした稲を作ります。また、稲作に大きな被害 をもたらす秋ウンカには、大きな力を発揮します。 アイガモ肉も販売するということで、アイガモ水稲同時作とも表現されます。
踏み込みによる苗床温床
有機農業は菌との共存です。自然界にある菌を使って、発酵熱を作りだし使います。昔ながらの方法 ですが、電気を使わないエコな最新の技とも言えます。 温度の低い冬から早春の時期に、外界をしゃ断した枠(木枠など)を設けて土を入れ、土の温度をあげ て苗つくりを行う施設を温床といいます。電熱器具を使う場合もありますが、有機農業では、稲ワラに ヌカを混ぜる等して発酵させて、その発酵熱を使ったりします。発酵のポイントは、1菌の餌となる糠 や有機窒素分を加えること、2水の含み具合です。水分量は手で強く握ると一旦固まり、すぐに崩れる くらいを目安にします。
平飼養鶏においては、ひよこを飼う時の床暖房にも使われます。柔らかな熱が非常に気持ちが良いよ うで、ひよこはお腹をベタッと床につけ、おまんじゅうのように丸くなって、だご寝をします。お腹を 冷やさないので、ひよこはとても健康に育ちます。
ぼかし肥料
聞き取り調査では、多くの有機農家が自家製の「ぼかし肥料」を使っ ていました。昔は何処の農家でも作っていたものです。化学肥料の普 及で、一般の農業では手間のかかる「ぼかし肥料」はほとんど作られ なくなったのですが、有機農家では身近に手に入る有機物を使って、 「農家こだわりのぼかし肥料」を作り続けています。
基本は、油かすや米ぬか等の有機質に山土やモミガラなどを混ぜて 発酵させることです。有機質をいろいろな割合で配合して成分を調整 し、ある程度発酵させることで、有機態の窒素成の一部がアンモニア や硝酸に無機化し、遅効性と速効性の両者のよいところを併せ持った 肥料となります。
原材料は、米ぬか・油粕・魚粉・牛糞・豚糞・鶏糞などや、コーヒー粕やふすま、オカラ等、工場で出る食品廃棄物を混ぜる場合もあり ます。つまり原材料は、有機物で、ある程度の窒素分を含むものならなんでもよいのです。
※有機農業参入促進協議会ホームページより