消費者と共に、
少量多品目の有畜複合循環農業
一般的にいう効率的な農業ではないかもしれない。自然循環型農業を軸とした生産と、「畑から食卓の見える生産者、食卓から畑を想像できる消費者」に表わされる消費者との関係は、これからの農業を模索するうえで示唆に富むものだった。県農業コンクールの食と農業部門秀賞受賞は、そのことを示している。
また、多くの研修生を受け入れ続け、周りで就農する新規就農者の出荷先確保のために、「万菜村」という出荷団体を立ち上げられた。彼らが就農し畑を耕すことで、地域の耕作放棄地の解消にもなっている。
有機農業をはじめたきっかけ
東京で共働きをしながら会社勤めをしていた1970年代後半、こどもの誕生と共に食べ物への関心が深まり、近くに住んでいた友人家族と有機野菜セットの提携グループに消費者として参加した。そして、生産地に行って農作業を手伝う縁農や、日本有機農業研究会の催しに参加するにつれ、有機農業の魅力に惹かれていった。子育て環境をよりよいものに変えたいという思いも強くなり、1982年夫婦共に32才の時、農業経験も家も農地もない新規就農者の走りとして、熊本市植木町に就農した。0からの出発であった。
<栽培品目>
少量多品目。年間50種類以上を露地でつくり、消費者に直接届ける。ハウスはトマトの雨よけと苗床のみ。米、麦(強力粉 中力粉 薄力粉)、菜種油、エゴマ油等も作っている。
平飼い養鶏の自家用餌として、飼料米も栽培。
<ほ場環境>
畑:淡色黒ボク土壌および赤黄色土壌、水田:灰色低地土、植木台地の吉松地域。
<堆肥による土づくり>
・採卵養鶏を組み入れた、有畜複合循環型農業。
もみ殻を大量に敷き詰めた鶏舎で平飼いし、自家配合の飼料とともに、収穫後の下葉や土手草を緑餌として給餌する。
約1年半の飼育期間中に、ニワトリが鶏舎でかきまわした発酵鶏糞を取り出し、水分を調整し再度積み込み、約半年で発酵鶏糞堆肥が完成。年3回積み込んで、年間約20tの植物繊維を多く含んだマイルドな発酵鶏糞堆肥をつくる。
畑の総面積が200aなので、単純計算で10aあたり約100kgの施用量に相当するが、実際には作物ごとに施用量には差異がある。
一般的に鶏糞堆肥はチッソ過多になることが心配されるが、もみ殻や野菜くずが大量に入り、約2年かけて発酵させたこの堆肥では問題はない。なおこの堆肥は育苗床土の材料にも利用している。
水田の利用は、①イネ+野菜、②稲+麦作、③飼料米単作の3タイプに大別されるが、いずれも稲ワラすき込みが基本なので、稲ワラの分解によってチッソ不足にならないように①では自家製の発酵鶏糞を利用、②③では近隣の養豚農家、酪農家から発酵した購入した堆肥を施肥する。
新たな取り組みとして、菊池川河川敷の雑草を積み込んだ堆肥つくりを始めている。来年度から施肥開始の予定。必要な微量要素の確保に期待している。
<ぼかし作り>
材料は、米ぬか1:乾燥オカラ1:油かす1を基本とし、菌床くず、自家製モミガラ燻炭を物理性を良くする為に加え、大型撹拌機で水分調整しながら、EM菌を加えつつ撹拌。これをビニール袋に入れて密封し嫌気発酵させ、1~2か月で完成。一回で15kg袋に約60〜70袋出来上がる。年3回作り、これを元肥として100kg/10a程度、追肥として適宜施用する。
他に土壌改良資材として
①サンライム(カキガラ石灰):年間40~50袋(20kg入り)畑に施用。
②サンゴカルシューム(ドナン):主に果菜類を中心にサンライムの代わりに施用。これによりトマトの尻腐れ果(石灰欠乏症))が減少した。
③ケイ酸肥料:水田に200kg/10a施用。稲のサヤを強化し、秋ウンカ対策となる。
<自家採種>
・イネ:ヒノヒカリ アキタコマチ ・ムギ:ミナミノカオリ チクゴイズミ シラサギ
・大豆:フクユタカ ・エゴマ ・モロヘイヤ ・オクラ ・ジャガイモ ・サトイモ
・サツマイモ ・ヒトモジ ・水前寺菜 ・米良大根 ・ヤーコン ・ニラ
※今後もできるかぎり自家採種の比率を高めてゆきたい
<苗>
苗は3年前から購入していない
・自家製温床土の作り方
①サツマイモ用踏込床土・・・厚さ30cmの稲わらとヌカ、発酵鶏糞を混合しながら踏み込み、温床を作る。その上にモミガラを5 cm程度敷くことで、熱が直接イモに当たらないようにし、その上に山土、完熟発酵鶏糞を混ぜたものを15 cmほど入れて、サツマイモの苗床とする。
②春にサツマイモの育苗を終えたものは、秋から冬にかけて2〜3回切り返しながら、ぼかし、鶏糞堆肥、カキガラ、大量のくん炭を混ぜて、さらに切り返しておく。翌年の春にこれを床から取り出し野菜の床土とする。
③果菜類ではこれをそのまま使い、葉菜類では肥料成分を落とすため、くん炭と山土を加えて使う。
くん炭も、自家製のもみ殻をくん蒸して作る。
<雑草対策>
・畑 :①黒マルチの利用 、②管理機による中耕除草 、③手取り
・水田:ジャンボタニシの利用
移植直後から2~3週間は極力均一な浅水にしてイネを食害するのを防ぐ。
その後2~3週間は深水に切り替えて、ジャンボタニシが動けるようにする。
最終的に残った場合は手で取る
<病害虫対策>
・病気
①ピーマン:夏場に地際からカビが発生して倒れることがある。土質によって出やすい、出にくいがある様なので畑を選ぶ。
②レタス:葉芯部の腐敗対策として、畝を高くして水はけを良くする。
・害虫
①キャベツ:ヨトウムシ対策に防虫ネットを張る。
②大根:近年は冬の温度が上がったせいか、サルハムシが年を越えて継続的に発生する。食害よりも臭がすることが問題。対策としては連作を避ける。または接近して植え付けない。
③ナス:ニジュウヤホシテントウムシは花や果実を食害する。ジャガイモの最後の頃の葉について、そこから広がるので、ジャガイモの近くにナスは植えない。
④トウモロコシ ニガウリ オクラ インゲン:カメムシがつく。これらの作物は接近して栽培しない
⑤レタス:タバコガがつく。パオパオ(べたがけ資材)を利用して侵入を防ぐ。
*他に広範囲に発生する害虫としてアオムシ アブラムシがある。チッソ過多や過乾燥の時発生すると考え、栽培管理に注意している。当面の対策として防虫ネットを使用している。
<水田>
秋ウンカ:雑草やヒエを放置しない。葉鞘を強くするため、ケイ酸肥料を施用する。
<畜産>
①飼育している家畜:採卵用養鶏
②家畜の入手方法:生後2日目の初生ビナの購入
③餌:遺伝子組み換えでないトウモロコシ、くず麦、自家製飼料稲、ヌカ オカラ、魚粉、カキガラを自家配合。市販の飼料は購入しない。野菜くず、土手草を緑餌として入れる。
④飼育方法:オスもいる平飼い。4群に分けて成鶏400羽を飼育。ひよこ100羽。1年半で更新。
⑤糞尿の処理と利用方法:もみ殻を敷料として鶏舎に入れ、雑草もいれるので、鶏舎の中で1年半かけて発酵鶏糞となる。鶏舎でも臭いはしない。
⑥使用している獣医薬品:なし
⑦有機農業全体の中での畜産の位置づけ:堆肥の主原料として農場の資源循環の要。野菜残渣や籾摺りくず米等の処理にもなる。採卵(250個/日)による平均した収入が得られ、肉も販売している。
<流通・販売>
①消費者の会「千草会」:野菜セット
「畑から食卓の見える生産者、食卓から畑を想像できる消費者」という産消提携が基本で、食卓で使う野菜をほぼ全量、周年で届けていく。
②福岡の自然食グループ:万菜村の野菜セット
③生協:単品出荷 万菜村での共同出荷
他 レストラン等へ出荷している。