有機農業リサーチプロジェクト No.008

太田黒 公英さん

太田黒 公英さん

有機農業に対する熱い思い

これまで有機一筋で頑張ってこられた太田黒さん、若いころは有機農業に対するこだわりの強さから、家族にも負担をかけてしまったと反省の弁も口にされている。最近は、経済性も必要との考えから、自分の好みよりも消費者の需要を重視するなど柔軟に対応されている。
技術的には、これまで苦労してきた水稲の除草について、ジャンボタニシとチェーン除草を組み合わせる方法を確立し、自信をつけられている。これからは土壌分析や肥料設計を取り入れていくつもりとのこと。

有機農業をはじめたきっかけ

実家で就農後、ナスの促成栽培で農薬多使用の農業を行っていた1974年、第3回全国有機農業大会が旧矢部町で開催され、そこで「京都使い捨て時代を考える会」の槌田劭先生の話を聞き感銘を受ける。それ以降、現実と理想の間で葛藤していく。熊本にも多士済々の先達がおられ、その方々からも影響を受けた。特に天草の中井俊作さんの生き方は強烈で、自給自足や直耕の生活に感銘をうけ、不完全ながらも今日まで実践している。また、一楽照雄先生の提携の思想にも強く惹かれ、消費者との直接提携を野菜セットという形で4年ほど取り組んだ。その後もトマト、米という単品については提携を続けている。

<栽培品目>
◆年間生産計画 年間生産計画

水稲の一部を除き現在JAS認証申請中。山都町(旧蘇陽)と熊本市の2か所に圃場があり、年間を通して栽培を行っている。好きな作物はトマト、ナスなどの果菜類であるが、消費者需要のあるものを選び、作っていきたい。

<圃場環境>
山都町・・阿蘇の外輪山の裾野にあり、標高約500~550m。水田は田土。畑は黒土。
熊本市・・標高10m未満。水田は粘土質の田土または畑土。

<土づくり>
購入堆肥は、発酵鶏糞と鶏糞堆肥。
自家製堆肥は、鶏糞、牛糞ともみ殻、土手の刈草を積み込み作る。使用量は水稲の場合500㎏/10a。野菜の場合、1~2t/10a)投入する。

<施肥> 
バランス・・山都町の生産者で共同購入 オーガニック853・・ジャパンバイオファーム。他の生産者と共同購入。 オーガニック745、古代天然苦土、マグキーゼ、有機石灰・・コメリ
自家製ボカシ・・鶏糞、牛糞、米ぬか、くず米が原料。
・水稲への使用量
元肥・・・堆肥500kgに加え、有機石灰100kg、古代苦土15kg(10aあたり)
追肥・・・生育を見てバランスなどを施用。
・野菜への使用量
元肥・・・オーガニック853、またはバランスを100kg程度。
土壌分析と施肥設計を行うようにしている。

<種>
カボチャ(カチワリ)、キュウリ(バテシラズ)の有機種を(財)自然農法国際開発センターより購入。
レンコン種は10年ほど前に購入後、自家採種を続けている。採種は、植付直前(前日など)に行い、量は10aあたりレンコンボート4~5杯(約10kg)。掘り方は収穫と同じく用水ポンプを使った水堀。

<苗>
野菜苗はトマト、レタスなどすべて自家育苗している。冬から春先は電熱線による地温確保、育苗ハウス内でのトンネルによる保温を行う。レタスその他の育苗は育苗ハウス内でセルトレイを使う。
床土はセルトレイ、鉢用とも自家配合する。(山土、オーガニック853または745、古代苦土、放線堆肥と有機石灰をよく混合して用いる。)
水稲の育苗には、山土のみで、苗床に元肥を通常程度入れる。

<雑草対策>
レンコンは、植え付け前から翌春の収穫終わりまでずっと水を張っている。
水田除草はジャンボタニシとチェーン除草を組み合わせることで解決できる確信を得ている。熊本市の水田は田植え後しばらくはごく浅水で、稲の茎が硬くなってきたら、たっぷり水を入れるとジャンボタニシ(自生)が活躍してくれる。その結果ヒエが少し残るぐらいでチェーン除草も必要ない。山都町の水田では、ジャンボタニシを投入する。田植え後10日ごろから何回かに分けて、10aあたりトータルで10リットルぐらい入れている。
チェーン除草は手製の道具を人力で引っ張っていたが、田植え機を改造した機械を知り合いに作ってもらい利用するようになった。
田植え後1週間後から10日までに1回目を引く。その後、1か月の間に合計3~4回引っ張る。機械の旋回時に踏み込んでしまった場合、あらかじめ用意しておいた大きな苗を補植する。

<病害虫対策>
トマトハウスでセンチュウの害が見られたので、緑肥の麦を栽培後、堆肥などを施用し太陽熱を利用した養生処理を行う予定。その他、野菜のかん水や葉面散布に、自家製の「えひめAI」(納豆菌、乳酸菌、パン酵母等を使用)を混ぜている。
山都町の水田では害虫の心配はほとんどないが、今年は穂首いもち病が多発して減収となった。来期はケイ酸肥料の施用を検討している。
熊本市の水田では、今年、秋ウンカの発生が例年より多かったので、栽植密度を少なくして丈夫なイネ作りを目指す。

イノシシ、シカの被害が年々ひどくなってきているので、山都町の圃場はすべて電気柵で囲っている。
電気柵は一部、共同利用をしており、その分については町から補助を利用した。その他は個人で購入し、合計5台の電柵機を使っている。
また一部は爆音機(バードキラー)をイノシシよけのため、夜に鳴らしている。カラスやスズメには、電子防鳥機(バードガード)とテグスを併せて対応している。

<流通・販売>
米は消費者の口コミ紹介で販路が確保されており、県内から関東、北海道まで送っている。
年一回、「農園だより」に近況や思いのたけをつづって、消費者に届けている。アピールしているのは、山都町の自然環境の素晴らしさと自身の人間性である。
野菜は、一部、個人の消費者に直売しているが、ほとんどは山都町の流通組織を通して販売している。

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