有機農業リサーチプロジェクト No.018

間司さん

澤村 輝彦さん

ハウスでトマト単作の有機栽培を実現

20歳で就農、当時は慣行栽培によるメロン專作であったが、生協から化学肥料、土壌消毒、除草剤を使用しない農産物の引き合いがあり挑戦を試みたそうだ。しかし、メロンはネコブセンチュウ等の連作障害に悩まされ土壌消毒なしでは難しいという結論に至ったと言われる。
30代に入り、新たにトマトを導入して、メロンとの二本立てとし、同時に全面有機に切り替えられた。試行錯誤を重ねて、40代でハウストマト一本に絞り込まれ、現在に至る。
有機農業の一般的イメージである中山間地・小規模・複合経営ではなく、平坦地・大規模・ハウス単作を確立し、雇用型経営の有機農業を実践されている。
 通常の慣行栽培に近いイメージが強いが、トマトの吸肥性が穏やかであることからも野草堆肥を基本にぼかし肥料の併用、たん水処理、強制排水など、生産基盤の改善と技術的工夫が随所に見られる。また病害抵抗性品種の導入や作型分散、これによる雑草・病害虫対策、さらには接ぎ木苗の全面委託などで省力化も実現。これからの有機農業の魅力と可能性を、十二分に示す事例といえる。

<栽培作物>
◆年間生産計画 ◆年間生産計画・トマトの作付割合
作型Ⅰ:60a (ミニトマト50a、大玉10a)
作型Ⅱ:65a (ハウス桃太郎)
作型Ⅲ:20a (マイロック)
作型Ⅳ:275a(マイロック)
・その他野菜(有機JAS・自然栽培)350a
   タマネギ、ジャガイモ、ショウガ、サツマイモ、カボチャ、キュウリ、オクラ、ピーマン 
 ・穀類
   米400a、小麦と雑穀合わせて50a

<ほ場の環境>
・圃場の土は母材が山土に由来する粘質性土壌と、干拓地である砂質土壌に大別される。前者は排水性に難があり、後者は地下水位が高い地域である。いずれも排水が課題となるため、地下1.2mのところに暗渠を設置、収集枡に集め、ポンプでくみ上げる等の強制排水を行なっている
・堆肥は牛糞+もみ殻を20年近く入れてきたが醗酵がうまくいかなかったためか病害虫が減少しなかった。そこで野草堆肥に切り替えたところ現在期待どおりの成果を生んでいる。野草堆肥の年間総生産量は160t。
  野草堆肥の作り方は、白川や緑川の河川敷の野草を刈り取ってきて堆積し、年1~2回切り返し、3年目に施用する。施用量は粘質土壌には2~3t/10a、砂質土壌には5~6t/10aである。ちなみに当堆肥のN成分は0.7~0.8%であるということであった。単純計算では施用量の多い圃場で約40kgの窒素量が入ることになるが、実際は特別な肥効は感じないということであった。

<肥料>
・自家製肥料「ぼかし」を作成している
 材料と割合は、米ぬか40%に土40%、残りの20%をナタネ油かす、魚粕、牡蠣殻粉末、ゴマ粕、昆布粉、グアノ、骨粉等で補う。これらを切り返しながら25日~1か月間好気発酵させて完成とし、圃場全体に10a当り300kgを施用する
 その後、生育中に150kg~200kg/10aを2~4回施用し、最終的には10aあたり1tの施肥量となる。ぼかし肥料のN成分量が1.2%なので、窒素は12kg/10aとなる 先の野草堆肥の投入から割り出されるトータルN成分量を考えた場合を考慮しても、肥効は緩やかと言われる。

<苗>
 ・基本的に自家育苗は行なわず、苗会社に接ぎ木したプラグ苗を依頼している。
 ・9月と10月はこれを直接圃場に植えつけるが、9月~10月以外は一端鉢に植えつけ、二次育苗をおこなう。
 *プラグ苗の苗令は1カ月苗だが さらに育苗を重ねる場合は20~25日を要する。

<雑草対策>
1.手取り・・・最終手段
2.作物で抑える・・・緑肥を作付する
3.マルチで抑える・・・植え付け時期ごとに4タイプがある
  ① 8月定植:畦上前面に麦ワラを敷いて定植し活着後に畦の両片側のみ黒マルチ
  ② 9月定植:全面黒マルチ                
  ③10月定植:全面黒マルチ
  ④ 1月定植:黒マルチ+透明マルチ(黒マルチは草対策。地温が低下するため透明マルチを重ねこれをカバーする。ただし1~3月は内側の黒マルチをめくり上げ、地温上昇を優先させ、4月は再び下して草対策を図る
  *雑草はその成長具合を見ると土壌中の肥料の状態を知ることが出来る

<病害虫対策>
 1.主として土壌病害は1カ月湛水し、土作りを兼ねて密度低下を図る。
 2.害虫は、防虫ネットを使用しハウス内への侵入を防ぐ。
 3.アブラムシ コナジラミ対策に粘着板(黄)を使用する。
 4.有機JAS許可資材を使う
許可資材の(農薬)の使用については、有機JASにおいては始めから使うことを前提としてはいけないので、害虫や病斑を認めた段階で防除を開始する。特に急激に広がる恐れや作柄に影響が強い、疫病、葉かび病、灰色かび病、コナジラミ、ダニ等は注意する。比較的ゆっくり広がるものにうどんこ病、アオムシ、コナガがあり、これらについては防除回数は少ない。
いずれにしても有機JASで許可されている農薬は化学合成農薬ではないので効果はあまりよくない。その分を、かん水や敷きワラ(除湿)、温度管理(後述)など、栽培管理でカバーし、被害を最小限に抑えている。 
アオムシにはBT剤、ハモグリバエ、ハダニには硫黄水和剤、コナジラミ、ハモグリバエにはミルベメクチン乳剤やスピノサド水和剤、うどんこ病にはイオウ粉、灰色かび病には微生物防除剤、疫病には銅水和剤を使用。葉かび病は抵抗性のある品種を選ぶことで対応している

<温度管理について>
①加温機の種類と台数
燃料の種類によって、重油20台、木質チップ2台、木質ペレット2台の加温機を使用。どの機器も燃焼効率、燃費、保温効果等考慮した場合、総合的には大差はない。
②内張りカーテンの利用
冬季の連棟ハウスを中心に1~2重の内張りをして燃費節減を図っている。  
③温度管理の目安
昼間は28℃で換気する。夜間の設定温度は12~14℃で、病気が出たら15℃に上げる。

 <水管理>
11月までは週1回、12~1月は半月に1回、2月は月1回という要領で、季節ごとに回数を変えるやり方を最優先している。後は天候や草勢や生育、生長点付近の色(アントシアニン)等を見て判断する。

<トマトの交配>
・マルハナバチを使用

<トマトの総収穫量>
・約400t(8~10t/ 10a)
塩トマトを30aほど栽培しており、収穫量は3分の1以下であるが、プレミアムを目指している。 

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