有機農業リサーチプロジェクト No.019

佐藤 勝六さん

佐藤 勝六さん

自家採種100%の有機人参

40年以上にわたり有機農業を続けている佐藤さんご夫婦。これまでに、様々な技術、資材を試みながら試行錯誤を繰り返してきたとのこと。「続けていくことが大事」という言葉にも重みが感じられる。
種子の自家採種も長く続けておられ、とくにニンジンについては、自家採種した種のみを使い約40a栽培している。「生命力のあるもの2割、食用に適しているもの8割」という自家採種用ニンジンの選抜基準が、佐藤さんの農業に対する考え方をよく表しているように感じた。

有機農業をはじめたきっかけ

実家の農業を手伝っていた奥さんが、ヘリコプターによる一斉防除などで水田のオタマジャクシなどが死んでいくのを見て疑問を感じていた折に、愛農会が開いた講演会で梁瀬先生の話を聞き、有機農業に興味を持ち、昭和47年から水田で有機農業を始めた。除草は手取り、肥料は堆肥のみで、収量は大幅に減り、周囲からも苦情を言われた。
ご主人の勝六さんは長野県出身で、愛農会の活動を通じて奥さんと知り合い、奥さんの実家で就農。
昭和51年から野菜も有機での栽培を始め、当初は「引き売り」していたが、その後、生協や出荷組合へと出荷するようになった。現在は、水稲60a、野菜100aをすべて有機で栽培している。

<栽培品目>
◆年間生産計画 年間生産計画

<ほ場環境>
標高550~600mの中山間地。阿蘇の外輪山に位置し、土質は、主に火山灰土。日照時間は一部をのぞき良好である。

<土づくり>
現在は肥育牛の堆肥などを2年に1回ぐらい施用。以前は、土着菌や購入した菌を使って、米ぬか・油粕・骨粉などを発酵させボカシを作っていたが、労力的に大変な為、今は行っていない。水田の稲わらの秋処理は、鶏糞を10aあたり50~60kg施し、浅く耕すようにしている。

<施肥>
市販の有機質肥料、苦土、ミネラル、カルシウム(石灰)を中心に使っている。他に鶏糞も利用している。早めに入れて発酵させることで、虫の発生を抑えるため、種まきの3週間前には元肥を入れるようにしている。施肥量は土壌分析に基づいて行い、作物や圃場条件、栽培時期により変わってくる。

<種>
長野の自然農法国際開発研究センターからトマト、ミニトマト、スイカ、夏キュウリなど
を購入している。自家採種品目は、ヘチマ、ニンジン、バナナウリ、サトイモ(シロドイモ)、チンゲンサイ、水稲など。
水稲の種子は、いもち病などが発生した時などに購入し更新する。
種の取り方については、それぞれの特徴、交雑などの問題があるので、長崎の岩崎政利さんの本などを見て勉強しながら続けている。

<具体例>ニンジンの種取り
品種は黒田五寸で、15年ほど前に長崎の岩崎さんから分けてもらったものである。
12月・選抜した100本ぐらいをハウスに植え替える。一度葉は枯れるが、そのうちに新芽と新根が出てくる。
5月・花が開花。
7月・種取り。できるだけ乾いているときに手で脱粒する。
脱芒機にかけたものを冷蔵庫に入れ休眠させる。100株で約5~6リットルの種が取れる。
8月・種まき(脱芒しているので、播種機で播ける)
    残ったものは、乾燥材を入れておけば1年後も使用できる。
※一番のポイントは、選抜にある。生命力のありそうなものを2割と、食用に適しているものを8割選ぶようにしている。人、好み、考え方が、選抜に反映すると考える。

<苗>
水稲の育苗は、みのる式のポット苗箱を使用。箱には山土のみを使用し、苗床に有機質肥料を施肥する。
野菜の育苗に使用する床土は、山土とくん炭、堆肥、有機質肥料などを混合して使用する。バランスについては、勘によるところが多い。たくさんの品目を同時に育苗するので、管理が一様でなく難しい。

<雑草対策>
・苗床雑草
広い面積は大変なため、玉ねぎの苗床のみ太陽熱処理を行っている。
種まきの1か月前に元肥を全て入れ、透明ビニールをかけて太陽熱処理を1か月行い、ビニールを剥いですぐに種まきをする。
・畑雑草
できるだけ雑草の種を残さない、また堆肥などから持ち込まない、一度発芽させてから耕すなどしている。あとは手取り除草。
・水田雑草
いくつかの合わせ技により対応している。
稲刈り後から植付までに、数回耕うんする。田植え後は、初期にチェーン除草、その後はジャンボタニシによる。チェーン除草の道具は手作りで、8列を一度にできるものを人力で引く。

<病害虫対策>
堆肥などの施用後に養生期間を取るようにしている。未熟な堆肥などには、コバエのウジムシなどがいることがあり、とくに、ダイコン、キュウリは葉の食害を受けることがある。少なくとも種まきの3週間前には施用をする。地力のある圃場に生命力のある種を植え、強い作物を作ることが大事だと考えている。また作付計画は、病害虫に強い根菜を中心に組み立てるようにしている。

鳥獣害対策は、イノシシとシカ対策として電柵やネットを設置している。個人の資金以外に、中山間地直接支払制度や県単独事業の補助金を利用している。ニンジン畑では、シカがニンジンの葉を食べに来るので、電気柵の内側にネットを張ることにより、シカが立ち止まり、飛び越えて侵入するのを防いでいる。

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