有機農業リサーチプロジェクト No.040

冨田 親由さん

冨田 親由さん

苗にストレス、深水栽培の自然米作り

冨田さんは若い頃から、自然栽培が地球環境を守ることに繋がるという認識で、特産である「七城メロン」で経営を維持しながら、イネと野菜の自然栽培に取り組んでこられた。稲ワラを腐熟させて還元するだけの自然農法から、電子技法や有機農業などにも取り組まれたが、それぞれにやってみると、それが全てでも無く矛盾点もあることから、現在は、山は山なり、野原は野原なりにと、自然を見習いながら、何も入れない何も出さないという事を基本として、それぞれの農法の利点も取り入れながら取り組んでいるという。
40年を超える有機農業の実践に裏付けされた実績と、人間関係を重視した信頼関係で販売体制も整備され、さらに付加価値を付けるために味噌やうどん、ソーメンなどの加工商品の開発にも意欲を燃やすなど、活力ある農業人である。
菊池地域の環境保全型農業技術研究会の中心的メンバーでもあり、菊池地域を農村天国にして、菊池に来た人達が癒やされる空間作り、地域作りをしたいと活動されている。
世界人類が健康で幸せに暮らせる世界を目指して、自然農法を極めることが目標であり、こだわった作物づくりを完成させることで地域が変わり、地域が変わることでさらに広がるのだという信念の人である。
「人が感動するような作物づくりが最近のこだわり」とおっしゃる技術屋でもある。


<栽培品種>

栽培作物は、水稲を経営の柱として麦(小麦、裸麦)、大豆、メロン(肥後グリーンの露地10a、施設20a)野菜(人参、大根、ナス、ネギ、四角豆、葉菜類)、を栽培している。
土地利用は、水田380aには水稲(一部に黒米、緑米、赤米)栽培のみの単作利用を基本とし、畑および休耕田や開田のように畑地化したところ200aでは、麦、大豆、エン麦、ソルゴーなどを作りながら土作りをして、土が出来てきたら野菜を輪作するというのが基本である。
冨田さんは全般的に管理しているが、主に米麦雑穀を中心とし、後継者が野菜類を担当している。

<ほ場環境>
県の北部、菊池市の西部に位置し、菊池川水系の迫間川と内田川の合流点から上流の両川に挟まれた肥沃な沖積平野で、土質は、水はけの良い花崗岩系の砂壌土である。

<土づくり>
「自然を見習いながら何も入れない、何も出さない」という自然農法を基本としているが、「ミミズや根茎などの伸入によって膨軟な土を作り、根が伸びやすいようにする」ことが必要なため、土壌の状態を見ながら場合によっては柔軟な対応も必要だと考えている。水田の場合は稲ワラ還元主体で、腐植促進とジャンボタニシの増殖抑制を図ることを目的として、12月と2月頃に3~5cm程度の荒起こしを行うのみであるが、土質が砂壌土であることから、ある程度の肥効も必要と考えている。今はやっていないが、過去にはレンゲ米の初代代表として緑肥を入れた時期もあった。
畑作の場合は、麦わら還元の他にエン麦やソルゴーなどを、緑肥として植え付けたり、大豆を栽培して地力増進を図っている。
稲ワラや麦稈の還元、緑肥の鋤込みに関して注意していることは、生を土に入れないことで、刈り込んで陽干しを充分に行い、枯れてから鋤込むことである。

<育苗>
ほとんど自家育苗である。水稲の床土は山土を使用し、籾種子120g/箱くらいを目処に播種する。
水田内に苗床をつくり、穴あきポリマルチを敷いた上に育苗箱を並べ、その上に黒の保温用不織布を掛けておき、芽が出てきたら少し押さえるようにする。5~6cmに伸びたころ、根と茎を押さえることで苗の根張りをよくするために塩ビパイプでローラー掛けしてストレスを与えるようにしている。黒の不織布を掛けることで苗を伸ばし、伸びすぎてモヤシ苗になるのをローラー掛けで抑えるとともに根張りをよくするのである。不織布は品種によって異なるが、は種後12~14日くらいで除去する。

<雑草対策>
水田の雑草対策は、手取りとジャンボタニシの利用である。
ジャンボタニシは、居ついており増殖し過ぎるのを防ぐため冬場12月と2月の2回、ロータリーで浅く(3~5㎝)荒起こしをしている。この時も、深うちせず均平になるよう尾輪を付けて作業を行う。
イネ作りは深水が基本で、茎を太く強くして増収を図るためには、可能な限り深水管理とするのが望ましいが、ジャンボタニシを利用する上では、浅水にしなければならないので、最も重要なのは均平に代掻きしておくことである。最近は、排水を良くするために溝切り機も使っている。
6月25日前後、代掻き後2~3日あけて田植えを行う。1週間位は田植え直後の小さく柔らかな苗をジャンボタニシに食べられないよう、走り水程度の湛水としてその活動を抑える。雑草が発芽し始めたら、その生え具合とジャンボタニシの活動状況を見ながら徐々に深水管理とする。1ヶ月くらい経てば、イネも成長し食害も無くなるが、そこにいくまでの水管理が難しいところであり、場合によっては草取り作業を行う必要もでてくる。

<病害虫対策>
ウンカやいもち病など病害虫の被害はほとんど無い。黒米などにスズメの害が少しはあるが、特に問題はない。

<流通販売>
個人販売からスタートし、口コミで信頼関係を築きながら、危険分散も考えて拡大してきた。現在は、有機販売を中心とした流通業者への販売が約7割で、口コミで広がった知人への個人販売(一部宅配)が3割程度である。行き先は、個人販売も含めて関東や関西まで広がって、様々な流通業者から引き合いがあるけれど、新たに注文されても余裕がないので、あまり手を広げずに人間関係を大事にしている。もっとも、有機農産物販売に興味を持つ若い小規模の流通業者などには、できる限り対応したいと考えている。
安全安心に心を配り、自分で育て、自信を持って消費者に届けることにこだわっている。

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