有機農業リサーチプロジェクト No.059

株式会社 絆さん

株式会社 絆さん

食べ物こそが命をつくる

株式会社「絆」の母体は「食べ物こそが命をつくる」をコンセプトとする「ゆるっとファーム天草」である。「絆」の農業指導担当者である大田さんは、長年しょうゆ・みそを製造する会社に勤務し、定年退職後、天草出身ということもあり、面識のあった「ゆるっとファーム天草」に誘われ「絆」に入社された。

 「絆」では主に、自然栽培の指導、後継者育成、地域の耕作放棄地解消に力を入れており、指導担当者の大田さんが、各地の講習会や現地研修会に参加し勉強されてきたノウハウをもとに、若手の指導をされている。実践を主とし、土づくりに重点を置いた指導で、土質にあっている作物の選定や、土がどの程度できてきているかを五感で感じ判断できるような経験を積むことが大事だと指導されている。精神的に厳しい時期も過去にあったそうだが、そういう時こそ、原点を見つめなおし足元を固め、お客様からの励ましの言葉やお便りを支えに日々頑張ってきたそうだ。

 地元農家の高齢化が進み、規模縮小や引退される農家が多く、農家の後継者不足は深刻になりつつある。そこで新規就農者へ技術指導や販路確保を行い、その地域での就農を手助けし、後継者不足を新規就農で解決することを目指している。また「絆」内の若手社員の育成、雇用促進を行い、より多くの耕作放棄を借り受けることを目指している。


<栽培品目>

基本的に同じ科の作物が続かないように輪作(タマネギ→カボチャもしくはスイトウ、オクラ→エンバクなど)を行っている。

主力作物のひとつであるタマネギは極早生、早生、中手の3種類を植付け、収穫期間を長くとれるように工夫している。天草は温暖で、タマネギは2月から収穫可能で、比較的単価の高い時期から出荷することができる。

今後、天草の伝統野菜も取り組みたいと考えており、「白オクラ」もその一つである。普通品種のオクラを毎年栽培し、生育・収穫は順調で今後は作付面積を増やしていく予定だが、それに加え「白オクラ」の栽培に挑戦したい。「白オクラ」は肉質が柔らかく生食が可能なオクラであるが、収穫量が普通オクラの3分の1と少ない。これを補うためブランド化し、収益を上げる必要がある。

タマネギ、オクラは自然農法での栽培が比較的容易である。タマネギは温暖な気候を活かし、早期出荷・高値取引が可能である。またオクラは耐暑・耐湿性に優れるため、収量がある程度読める作物である。これら2つは今後、拡大していきたいと考えており、また新規就農者にお勧めしている品目でもある。

<ほ場環境>
圃場は、標高400m程度の場所から、10m程度のところまで数箇所に点在している。圃場1枚は10a~20a程度。土質については場所によって様々であるが、灰色低地土などの強粘質のような所や礫の多い褐色低地土のような排水性の高い圃場がある。

<土づくり>
海草問屋から出る海草屑(20kg/10a)や米ぬか600kg/10a、中熟牛糞堆肥を適量投入している。本当はボカシを作って投入したいのだが、場所と設備がないので圃場に直接投入し、ビニールをかけて太陽熱処理を行い畑ごと発酵させる(ボカす)ことをしている。このとき微生物補給として畑には竹やぶから腐葉土や枯葉などを採取して投入する。また水田にはラクトバチルス(乳酸菌)を600g/10aを投入することもある。

トラクターで深度は約15cmで耕うんしているが、耕うん後に土中に繊維質の残渣が多い場合は数回耕うんする場合もある。また深耕が必要な場合は緑肥(夏:ソルゴー、冬:エンバク)を栽培し、緑肥の根の力に任せている。

タマネギの場合、ph調整には一般ホームセンターの有機石灰を100kg~300kg/10a施用しているが、特に土壌分析で施肥量を決めているわけではない。しかしその必要性は感じており、土壌分析器は購入しているが、現在のところ積極的には使用していない。

耕作放棄地を借り受ける場合は、①伐採、②米ぬか600kg/10a、③数回耕うんを行い、1年くらい様子を見て植付けを始める。

<施肥>
施肥資材として、畑にはあじまる4号(三成肥料 NPK=663)を40kg~60kg/10a施肥している。施肥のタイミングとしては植付2週間前に有機石灰を散布、数日後にあじまる4号を施肥し、耕うんする。施肥方法としては自走肥料散布機(デリカ)を利用している。過去に豚尿肥料や竹パウダー等を利用したが、肥料的効果があまり見られなかったので、現在は使用していない。
水稲に関しては、ワラのすき込み、冬期に菜の花を栽培しすき込みを行う程度で、施肥は行っていない。

<種>
自家採種しているのは水稲(ヒトメボレ)とジャガイモ(男爵)のみ。可能であれば自家採種の種を取る、もしくは入手したいと考えており、過去には栃木の自然栽培種を取り扱う業者にインターネットで注文したが、現在は地元の一般の種苗会社から市販種を購入している。

<苗>
水稲の床土には赤土を利用している。購入した赤土を透明ビニール袋に詰め、封をした後夏期に日光に当て太陽熱処理を行い、その翌春に床土として利用する。育苗はハウス育苗。地下水で潅水するが、これまでに何度も失敗した。たとえば、福岡出張日の朝、雨が降っていたのでハウスを閉めて福岡へ出かけたが、天草では昼から晴れ、帰宅時には苗がとろけ全滅していた。
 タマネギ苗床では、圃場にビニールをかけ太陽熱処理を行った後は種する。

<雑草対策>
畑では7月中旬~8月下旬の約40日間、太陽熱処理で雑草種子を減らす。
マルチも機械で張っているが、植え穴などから生えてくる雑草は手取りする。タマネギ通路などは管理機で除草し、その他狭い場所は手で取る。
水稲ではジャンボタニシを利用している。最初の頃は水の調整がうまくいかず、ジャンボタニシに活躍してもらえなかったが、経験を積むうちに活用できるようになった。
 除草で最も気をつけているポイントは種を残さないこと。圃場内や畦でも雑草が種をつける前に除草するように努めている。そのためか、年々除草作業時間が減っており、現在では除草は全体作業の30%程度である。

<病害虫対策>
鳥獣害対策としては、イノシシが出るので電気柵を設置している。
病害虫対策としては、現在のところ収穫不能になるまでやられる作物はないが、オクラには虫除けとしてニンニク木酢液を自作し散布している。ニンニク木酢液は、すりつぶしたニンニク600gを木酢液4リットルに1~2ヶ月間漬け込み、700倍に薄めて適量散布する。
過去にはイモムシ系(ネキリムシなど)によって、作物が全滅した経験がある。手で除去したが、収穫はできなかった。

<流通・販売>
 主な売り先は、自社の「ゆるっとショップ天草(天草市)」、「有機生活(益城)」、天草のアンテナショップ(横浜)、ティア(熊本市)、西鉄ストア(福岡)など。
 販売価格は米600円/kg(収量400kg/10a)で5kgもしくは10kgで販売している。米の生産コストは比較的低く、売上の約20%でおさまっている。タマネギは250円/kg(収量:2000kg/10a)であり、生産コストは売上の約20%である。現在、需要に供給が追いついていないので、新たな販路開拓は行っていないし、品質保持のため無理な規模拡大や外注は行っていない。

生産物のポイントとしては、無農薬で海のミネラルの利用をアピールして営業してきた。またお客様とのつながりを大切にするため適時「旬のたより」を作成し、webで公開することで農園の状況や食育、生産者の思いなどを伝えている。

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