土壌微生物の働きで美味しい柑橘を栽培

甘夏の味の低下を感じていた27~28歳の頃、全国的にも日照不足で味が悪い年があった。そんな中でも、ぼかし肥料だけを使い例年通りおいしい梨を作っているグループが鳥取にあると聞き、生産者を訪ねた。実際にそのぼかしを注文し、それだけを使って栽培してみると、色も味も収量も良く、偶然だったのかもしれないが驚いた。

同時期に、所属していた田浦柑橘組合で配合肥料の設計を変える話があり、資材等を検討するなかで、それまでの配合肥料と化成肥料のみ、ぼかし肥料のみで試験栽培をしてみたところ、化成肥料のみの試験区は病害虫の発生や着色・食味不良があり、続けられなくなった。ぼかし肥料だけで作るとなぜ生育も味も良くなるのかという疑問の答えを探して、京都大学の小林達治先生と出会い、土壌中の微生物について学び、その働きが味にも重要なのだという確信を持った。

全国的にも有機農業の取組が始まったが、「有機栽培だから虫食いがあって当然」という考えに反発し、小林理論と自分で実践した科学的な有機農業を実証したいと考え、(株)マルタの発足に至った。生産者が出資する株式会社として立ち上げ、3年目に静岡に堆肥センターを設立。当時の日本有機農業研究会代表からは、「堆肥は自分で作るもの、作った農産物は自分で売ること」という当時主流の考えを講演会で話され、工場での堆肥生産と会社組織での販売というマルタの方向性が批難されたこともある。こだわった良い堆肥をセンターで作り、多くの生産者が使い、販売もグループですることで有機農業が早く広がると考え、どちらが有機農業を農の主流に早く到達させる方向かと、今も忘れずに歩んでいる。

1999年のJAS法改正時には、国会の衆院農林水産委員会で有機JAS法推進の立場で意見を述べ、有機JASや特別栽培農産物の表示ガイドライン等の作成に尽力するなど、有機農業や環境保全型農業の普及活動を行ってきた。
振り返って、失敗と反省の40年の経過であったが自園での有機栽培の実践と㈱マルタでの販売拡大を続け、今後とも「有機農業を農の主流に」との活動を続ける。

<栽培品種>
不知火、レモン、甘夏、はるか、せとかを主力として、計20品種を栽培。
特別栽培がほとんどで甘夏の50aが有機JAS取得圃場。

<圃場環境>
標高:ほ場の低いところで5m、高いところで230mほど
土質:古生層、中生層などの古い土質に由来した土壌が多い。古い地層の方が良い味の作物ができる。田浦は中央構造線沿いの最西端に位置し古い土質の土壌である為、味のいい作物ができやすい地域だが、傾斜地が多いので労働生産性が悪く、収量が上がらないという地域でもある。鹿児島県内の圃場など一部は安山岩系の土壌もある。
日照:中晩柑の場合、南西で日照時間が長いほ場は酸が早く抜けて味のいいものができるという評価が多いが、北向きの方が台風被害は少ない。また、北向きは朝日が遅く、気温が上がってから陽が当たるので、凍結した柑橘が徐々に溶け、比較的被害が少なくなる。南向きは朝日が当たるのが早く、急激に溶けて腐れたりすることが多い。

<肥料>
〇モグラ堆肥 (株)マルタ製の有機発酵肥料(ぼかし肥料に近い)
米ぬか、骨粉、大豆油かす、海草、魚粉、ピートモスなど全15種類の原料を使って製造。
肥料成分が多く、配合肥料と同じような感覚で使用できる。 N-P-Kは6-7-4。微量要素もしっかり入っている。土の中の微生物の活性に効果的に寄与する目的で製造されている。

<施肥方法>
モグラA堆肥を温州みかん400kg/10a/年、甘夏と不知火700kg/10a/年、レモン800kg/10a/年、3月、6月、9月の年3回に分けて施肥。ほ場に全面散布し、耕さない。
品種によってはモグラ堆肥で早くて2年、遅くても5年で味が変わってくる。味が変わってくる頃から病害虫の発生が減少してくる。いちごやメロンは柑橘より早く味がよくなるので利用者が多い。

<雑草対策>
年に5回ほど刈払機により草刈している。乗用草刈機の導入を検討しているが、石ころや灌水チューブなどが導入の妨げとなっている。
春に生えた草を5月いっぱいまで伸ばすと、ナギナタガヤなどは倒伏して夏の草を抑える働きがある。いくつかの圃場で背の高い草だけを刈ったり、引っこ抜いたり、倒伏した草を踏みつけていくなどその働きを利用するなど工夫をして雑草管理を行っている。その試しの圃場の管理をできるだけ広げ、年5回の草刈を2~3回にして省力化を図っている。従業員には草刈の達成感がないという意見もあるが、栽培の狙いやメリットを説明して理解してもらうように努めている。

<病害虫対策>
有機でないほ場の化学農薬の使用は1、2回。それを有機資材で代替えし有機ほ場を広げていくような取組をしている。当然防除適期が狭くなるので観察がポイントになる。
カイガラムシ、ダニ類は増える前の5月~6月にマシン油、コサイドボルドーで対応し、防除する。
かいよう病、黒点病は剪定や枯れ枝切りなどの他、3月と5月にマシン油、コサイドボルドーで防除する。イセリアカイガラムシ、ヤノネカイガラムシなど、3年に1度くらいの周期で増える虫に有機資材で対応できるよう、天敵となるような生物を殺さない方法で防除する方向で鶴田農園の従業員に研究をさせ、特別栽培の園地を有機栽培で管理できるようにしていきたい。
〇ヒヨドリ:ポールを立ててネットを張り、テントのようにして園地全体を覆って防除している。その方法で15年ほどやってきたが、台風や大雪でポールが倒れたり、折れたりする箇所がでてきたので、方法を見直す必要がでてきている。一昨年はヒヨドリが多く飛来して、20~30羽でネットに乗って重みで沈んだところを上部の果実を食べられ、せとかなど2~3割ほどの被害があった。来年以降にむけて対策を考える必要がある。
〇イノシシ:電柵で防除。イノシシは園地を掘り起こして作業に支障が出る。

<有機栽培のポイント>
〇品質の良い堆肥を使うこと
・多種類の原料で、微生物の多様性を作る。一つ一つの材料について微生物の嗜好性があるため材料が多いと微生物の多様性が多種類の養分を作り出し良質な堆肥となる。また、材料が多いと発酵が早く完成までの時間が短くなる。
・米ぬか、骨粉、甲殻類の殻、海藻を少しでも入れて起爆剤にすると、いい菌が早く繁殖する。
・いい水(クラスターの小さい水、飲料水として上質な水)を添加するといい菌が早く発酵する
・初期の発酵から最後まで一切腐敗させないこと。1度でも腐敗させると肥料成分が落ちる。
腐敗させないポイント:初期は嫌気発酵を主動させ、後から好気発酵させると最後まで腐敗しにくくなる。腐敗させないと、入れた材料の肥料成分がほぼそのまま堆肥に残る。