抗生剤使用なし!
あか牛と梅山豚(メイシャントン)の繁殖・肥育
坂本幸誠さんの豚の豚舎に行くと、子豚たちが、豚舎の中で好きな格好で寝そべっている。豚舎はとても清潔で、いわゆる豚の臭いはほとんどしない。しかも、豚舎は屋外の遊び場につながっており、その遊び場には草が生えた土手がある。豚たちは、土手の土をほじくったりしている。
あか牛と梅山豚(メイシャントン)の繁殖、肥育を行っているが、どちらも抗生剤、ワクチンを使用していない。餌に納豆をまぜたり、えひめAI(発酵液肥)を飲ませたり、畜舎の消毒に使ったりしている。何よりも、「生き残ったものが強い個体である」という信念を持って畜産に取り組んでおられる。
水稲栽培についても、消費者との交流を大事にしながら、アイガモを活用した無農薬米を栽培している。アイガモの世話などを楽しみながら水稲栽培を行っている。
有機農業をはじめたきっかけ
家業を継ぎ、米、たばこを慣行農法で作り、和牛を飼育していたが、稲作の粉末農薬散布作業が嫌で、やりたくなかった。ホースによる農薬散布でどれだけ農薬を吸い込んだかわからない。
そんな時に宇根豊さんの「減農薬稲作のすすめ」を読み、「リサージェンス現象」(農薬により害虫の天敵の虫も死ぬ)について知ることになる。農薬を使用する対象の害虫が150種なのに対し、作物に有益に働き、本来は殺す必要の無い益虫が300種、そのどちらでも無い「ただの虫」が約1,400種もいると知り、無農薬による水稲栽培を目指すようになる。
平成元年から消費者と米の直接取引を始める。同時に自宅を改装し、精米所と低温倉庫を作る。
平成3年からアイガモの導入を始め、除草剤を使用しないと草がどれくらい生えるのか分からなかったが、アイガモの効果には驚いた。しかも、楽しい農業になった。
現在は、無農薬米と低農薬米(除草剤1回使用)、飼料米、有機ピーマンを栽培している。また、あか牛の繁殖、肥育に加え、7年ほど前から梅山豚の繁殖、肥育も行っている。いずれも薬をできるだけ使わずに飼育している。
<栽培品目>
<ほ場環境>
標高450m前後の中山間地に圃場は位置し、土質は主に赤土。
<土づくり>
堆肥は全量自家製で購入はしない。牛糞堆肥にはもみ殻、豚ぷん堆肥にはのこくずを使用。いずれも自家製の「えひめAI」1000倍液と水を散布し、切り返しを行う。堆肥は圃場2 t/10a投入する。
<施肥>
水田は油粕(国産菜種100%使用の堀内製油の一番搾り)を元肥に40kg/10a、グアノを追肥で40kg/10a施肥する。
ピーマンにはニューパーフェクト有機を使用。
<苗>
水稲苗は、山土と油粕、グアノを使用して自家育苗。肥料は一箱あたり90~100gを目安にし、山土と混合したものを苗箱に使う。育苗中にがっちりした強い苗をつくるため、ローラー踏圧を行う。1回目は苗が3cmぐらいの時にラブシートをはいで踏圧し、もう一度シートを戻す。その後、ローラーをだんだん重くして合計5回ぐらい行う。最後はローラーの重さは5kgぐらい。1回ずつローラーをかける向きを反対にする。ローラーは苗箱幅60cmに合わせた物が売られている。(詳細は「現代農業」などで)
<雑草対策>
水稲の除草はアイガモを利用するが、初期の除草が大事と考え、120羽を一度に入れ、3か所を順番にまわす。カラスよけのテグスをはる。品種は青首で、水田から上げた後もしばらく養って、食肉加工して販売している。
ピーマンについては、除草はマルチと手取り。
<病害虫対策>
前述のとおり強い苗を作り、アイガモにより虫を抑制し、株間を広くとることで病気の発生などを抑えるようにしている。
ピーマンについては特にしていない。
鳥獣害対策には電気柵を使用。
<畜産について>
①飼育している家畜
あか牛、梅山豚(メイシャントン)、アイガモ
②家畜の入手方法
牛:家畜市場
豚:自家繁殖、茨城畜産センター(梅山豚は国内で飼育少なく、また、中国からの持ち込みが制限されているため、近親気味になっている。他のところからもらってきたら無菌飼育だったためか病気ですぐに死んだ)
アイガモ:千葉椎名ふ化場(青首480円、空輸便で届くので空港に取りに行く)
③餌
牛:濃厚飼料(JA)、わら、イタリアン、トウモロコシ(自家)
豚:配合飼料、遺伝子組換えなしトウモロコシ(黒瀬商店)、納豆(マルキン、検査用のをわけてもらう)バンブーミックス(グリーンキューブ)、飼料米、トウモロコシ(自家)
アイガモ:くず米(自家)
④飼育方法
牛:繁殖牛舎300㎡、運動場2,000㎡、肥育牛舎 200㎡
豚:豚舎150㎡、屋外運動場5000㎡
アイガモ:15㎡
⑤糞尿の処理と利用方法
牛はもみ殻、豚はのこ屑を使って毎日交換する。糞尿は切り返して堆肥化し全量使っている。
⑥使用している医薬品
イソジン(ヨード液、去勢時の消毒に)、他に漢方薬を使用。ワクチン、抗生剤の使用はなし。豚に納豆を食べさせることで数年前被害をもたらしたサルモネラ菌を抑えている。自然の土や草に触れさせることが大事と考え、土手で運動させることもある。
死んでしまう個体もあるが、生き残ったものは強い個体と考えている。
⑦有機農業全体の中での畜産の位置づけは?
わらは牛のえさになる。自家製の飼料はすべて無農薬栽培。堆肥は全量水田、畑に使用している。
<販売・流通>
・米
消費者に直接販売している。熊本市内が約90%で、宅急便で送っている。
無農薬掛け干天日干しで10㎏7000円、低農薬米(除草剤1回使用)10㎏5500円。
消費者との交流会を年に4回行う。
2月市内交流会、4月山菜採り交流会、5月田植え交流会、10月稲刈り交流会。
アイガモは久留米の食肉加工業者に頼んで肉にしてもらい、1㎏(2~2.5羽分)あたり3500円で販売している。牛肉、豚肉は月に一回熊本市内に配達している。他は、インターネットでの販売で、関東方面が多い。ホームページを見て、業者さんなどがコンタクトをとってくる。
販路開拓では当初はイベントに参加して商品を売り込んだ。その後は口コミで広がった、また、保育園との田植え交流会などを行うことで、保護者が消費者になってくれることも多い。