アンケートをしてみました
有機農業者市町村別分布
アンケート回答者数を市町村別でみると、10名以上が10市町村あり、最も多かったのは山都町の128名であった。この数字は、アンケートを回収できた人数であり、実際はもっと多くの有機農業者がいると推察される。
アンケート回答者年齢分布
今回のアンケート回答者の平均年齢は、59歳であった。アンケートは、農家の世帯主が記入している可能性が高い。
新規就農者は30代と40代が多く、60代以上にも新規就農者が多いのは、退職後の新規就農と思われる。
くまもとグリーン農業生産宣言者数
ほ場面積と農家戸数
ほ場面積と割合
注)「有機JAS取得」の面積には、熊有研認証の有機JAS農家のうち、回答がなかった農家の面積を含めた。
熊本県の耕作面積の統計値は、117,000ha(H23年)である。 有機農業の占める割合は、農家数で0.5%、面積で0.4%と推定されている(平成22年度有機農業基礎データ作成事業報告書) 。
5ha以下の農家が95%を占め、70%の面積を耕作しており、残り6%の大規模農家が約30%の面積を耕作している。50a以下が2割、100a以下まで含めて5割と比較的小規模な農家が多い一方、10ha以上の大規模農家も存在している。 今回の調査では、熊本県全体の耕作面積117,000haに対して、有機農業の占める割合は0.71%となった。全国規模では、有機農業の占める割合は0.4%と推定されていることから、全国平均の約1.8倍という結果である。 実際はもっと多いと推察される。
熊本は、有機農家であっても有機JAS認証を取得していない農家数が全国で第3位と推定されている(平成22年度有機農業基礎データ作成事業報告書) 。
今回の調査では、有機農業に取り組む農家(452戸)のうち38%(170戸)が有機JASを取得していた。
アンケート回答結果のうち、有機JAS取得農家数及びほ場面積
熊本県の有機JAS取得農家数及びほ場の面積は、197戸(H26.3.31農林水産省)、54,856a(H25.4.1農林水産省)であり、今回の調査ではその86%及び63%にあたる170戸34,319aの耕作者から回答を得た。 今回の調査では、有機JAS取得農家の86%から回答を得られた一方、有機JASほ場面積では63%にとどまった。アンケートの面積に関する設問は、「有機」「有機JAS」「環境保全型」といった区分ごとに面積を記入してもらう形式としていたが、各農家にとって明確に回答しやすいものでなかった可能性がある。後述の「この調査で見えてきたこと」の項にあるとおり、「有機」「環境保全型」「無農薬・無化学肥料」などの用語の混乱が反映されていると推察される。
出荷高(販売金額)400~500万円にかけて少なくなり、1,000~2,000万円で増加しており、ほ場面積と同様に、小規模と大規模に二分されていることがうかがえた。
有機農業歴5年未満の農家では出荷高200万円以下が77%を占め、16年以上20年未満の農家でも200万円以下が約6割を占めたが、1,000万円以上の農家も1~2割みられた。
アンケートでは、出荷先について「消費者へ直接」、「流通業者」など8つの選択肢から、販売額が多い順に順位を記入してもらう形式とした。 1位に選ばれた出荷先としては、消費者へ直接、流通業者が最も多く、次いで農協・生協、直売所であった。学校給食や飲食店、加工業者への出荷を主力としている有機農家は少ないことがわかった。
新規就農者の出荷先は、消費者へ直接、流通業者、直売所の順で、後継者は流通業者、消費者に直接、農協・生協の順であった。 新規就農者では、直接販売である「消費者へ直接」、「直売所」が半数を占め、後継者では、「流通業者」や「農協・生協」といった団体への出荷が半数を占めている。
農業歴ごとに主な出荷先を見ると、31~50年で「生協・農協」の割合が突出している。また、農業歴10年以下では「直売所」の割合が高く、世代によって主な出荷先が推移していると思われた。
農業歴ごとに主な出荷先を見ると、31~50年で「生協・農協」の割合が突出している。また、農業歴10年以下では「直売所」の割合が高く、世代によって主な出荷先が推移していると思われた。
主な出荷先が「流通業者」、「農協・生協」の農家では、品目数が少ない傾向にあ ることがわかった。
ほ場面積が大きくなるほど、流通業者への出荷が多い傾向にあった。また、50~ 200aの農家では、農協・生協への出荷が多かった。
有機JAS認証を取得している場合、流通業者への出荷を主とする農家が最も多く、次いで農協・生協への出荷割合が高かった。
有機農業の技術についての回答結果を集計した。複数回答可のため、合計はアンケート回答数(452)とは 一致しない。
有機農家数九州最大!? 山都町の分析
山都町全体の耕作面積は、5,350ha とされている(農林水産省統計情報)。 全国における有機農業の面積の割合は、0.4%と推定されている (平成22年度有機農業基礎データ作成事業報告書) 。
山都町全体の耕作面積(5,350ha)に対する有機総面積(159ha)の割合は約3%で、全国平均の約7倍であった。
熊本県全体と比較すると、10ha 以上の大規模農家は少ないが、1~3ha の農家の割合はやや多かった。
今回の調査では回答者の年齢を記入されており、構成者全員を含む年齢ではなかったが、山都町は回答全体と比較して 50~60 代の割合が多く、高齢化が進んでいるのではないかと考えられる。
山都町では、有機農業歴 20 年以上が半数以上を占め、有機農業の歴史の長さを示している。
「有機農業の町」山都町 【飯星幹治】
アンケート回収が128 戸(県全体の 28%)と、ダントツの有機農家数を誇る山都町の有機農業は昭和40年頃から、JA 矢部が音頭をとって地元集落及び婦人会の方々への呼びかけ、消費者と共に活動が始まりました。40年の時を経て、当時の方で継続されているのは数人だけです。昭和50年代からは、熊本市内に有機農産物の物流センターが作られたことで流通が増え、この時に始められた有機農家の大半は、 現在も本人あるいはその後継者へと受け継がれているようです。しかし、ご本人の年齢も70代となられ、 後継者がいない農家も多く、行き先を心配されている方も数多く見受けられます。アンケート調査で訪問しても、ここ2~3年でやめたいと言われる方も数多く見受けられました。お米農家が多かったように感じます。
平成13年頃から、有機 JAS 認証が始まり、当初ほとんどの方が認証申請を行い、有機 JAS 農家とし 活動されていましたが、年に1度の定期調査を2~3回うけて、有機 JAS のわずらわしさと、認証料金 と米の出量のアンバランスで、有機 JAS 認証をやめられてしまいました。ただ、JA 内部に有機農業研 究会の部会があったため、大半の方は有機 JAS 申請をやめられただけで有機農業は継続されています。 組織の柔軟さと販路の確立があったための事だと感じました。
アンケート結果を見て感じることは、山都町では流通組織や JA 等を通じての販売が多く、有機農産物 の販売所がほとんどないこともあり、消費者への直接販売が少ないということです。消費者への直接販売は、地域がら今後も増えるような気配はなく、山都町で有機農業を始める人はどこかの団体・組織に 入らないと継続が困難な状況となります。他町村では道の駅等の販売所が充実している為、新規就農者の販売先は直売所も多いようです。山都町も新規就農者の入り口として、直売所を充実して行く必要を感じています。
販売高を見ると、流通が確立しているところは売上が高いようです。1000 万以上の方もずいぶん増え、 特に単品の方(お茶、ベビーリーフ等)にそれが見受けられます。逆に水稲だけの方は、米の生産者売り渡し価格も下がったため、50 万円未満も多く見受けられます。50 万円未満の水稲生産者は米価格の下落とともにイノシシ、シカ等の対応に苦慮しており、将来やめる可能性を秘めています。
今後の山都町の有機農業は、町をあげての有機農産物の販売体制の確立が重要課題になってくると思われます。基盤整備の遅れから考えると、今後も国が考える大規模農家は格段に増える要素はないため、 機械組合の確立を進め、新規就農者が使い勝手の良い方式を準備することで、新規就農者の受け入れを進め、有機農業者をふやす努力も必要となってくるでしょう。
山都町の有機農業が子育てのための農業、そして老後の楽しみと生きがいのための農業を併せてもてるように、更なる努力が必要になってくるようです。「有機農業の町」山都町の名をさらに高めるために!
新規就農者アンケート分析
新規就農者が多い市町村と、少ない市町村があることがうかがえる。新規就農者が10名以上の熊本市 (15名)、南阿蘇村(14名)と、1~5 名の市町村とに2分されている状況である。
新規就農者の売り上げは、31%が 50 万円以下で、72%が 200 万円以下であった。
新規就農者 77 人。多いのか?少ないのか? 【間 司】
アンケートでピックアップされた新規就農者 77 人の自治体ごとの分布を見てみると、熊本市 15 人、南阿蘇村 14 人が飛び抜けていて、山都町 5 人に続き、宇城市、天草市、人吉市、菊池市が 4 人 である。これらはいずれも受け入れに前向きな自治体である。一方 0〜1 人という自治体も多く、こ れらの地区の受け入れ体制をあまり聞かない。
熊本市が多いのは、研修受け入れ先があるということもあるが、何よりも消費地に近いということではないだろうか。南阿蘇を含む阿蘇地域全体では 22 人になるが、これは自治体が積極的な事に加え、都会から阿蘇の景観にあこがれて移り住む者が多いということも影響していると思われる。 南阿蘇村については熊本市圏へのアクセスの容易さもあるだろう。意外なのは山都町が少ないということだ。これは考察に値する。新規就農者にとっては、もともとの販売のルートが無いわけで、 消費地に近いことが重要になる。一方、新規就農者の新しい力を最も必要としているのは中山間地のはずである。このミスマッチをどのような手だてをうって解消していくのか、今後の重要な課題となりそうだ。高齢化が進み、農業にとっても地域にとっても新規就農者の増加が急がれる今、77 人という数字は、けして多いとは言えない。
有機農業における新規就農の流れは、全く支援もなくアルバイトをする等して自力で生活を支えていた時期と、何らかの形で国による研修期間の生活支援が行われ始めた時期(2000 年頃~)とで 大きく様相が異なってくる。
前者においては、研修とともに収入がなくなるため、そもそも長期の研修という想定が難しかったのである。それに対して後者は、生活の保障を得ることによって、一年間みっちりと研修を受けることが可能となった。そうした基盤の充実にともなって、就農希望者の数も、就農してからの定着率も向上してきている。
しかし、就農後の経営状況は依然として厳しい実態が見えてくる。年間売り上げ 50 万円までが 20 人、50〜100 万円が 14 人、100〜200 万円が 13 人で計 44 人、実に約 63%を占める。一方 1000 万円 以上は 6 人で約 8%、500 万円以上でみると 10 人で約 13%である。この数字が年の経過とともに上昇してくれば、就農年数の経過とともに売り上げが向上してくるということだし、変わらなければ、 兼業農家で推移するか、数年を経て脱落するケースが増えてるということだ。
売り上げ実績は、出荷集団に属しているか否かも大きく関わっているようだ。全体的に、主たる販売先が「消費者に直接」というのが一番多いが、売り上げが少ないケースでは出荷先が「直売店」 という割合が多くなる。それに対して売上高の大きいケースは、出荷集団に属し組織的な出荷先に出している。
新規就農者には、退職後に就農したと思われる人(データの中で 55 歳以上で、10 年以下の農業経験の人を退職後就農とみると、10 名がそれに該当する)を別として、2つの流れがあるようだ。「自分の世界での生活スタイルを望み、組織に属したがらない」傾向と、「専業農家を目指し生産者集団や、出荷集団に属することも当然と考える」傾向である。もちろん単純にこれで区分けできるわけで はないが、この傾向は今後も同じであろう。特に有機農業の新規就農者には、前者の割合が慣行農法の場合に比べて格段に多いという傾向も変わらないと思われる。
有機農業の新規就農者にとって一番の課題は、定着し農業者として安定した生活を立てる事が出るようになるかどうかである。そのための方策、スタイルは様々であるというのが、現状の事例集積から推察できる。その中で何を有効策として見極めていくのか、しばらく観察を続けていく中で、見えてくるのではないかと思われる。