夏みず田んぼで、お米と麦の大規模有機栽培
「体を壊して食べ物を自分で作ろうと思った時、親が当たり前のように昔ながらの自然農法をやっていたことに気がつかされ、自分もやることを決心した」と、就農の動機を語られた。
秀明という団体に属し、そのネットワークが生産や販売の力になっているとはいえ、個人の力で800俵全てを高値で売るのは大変なはずだ。しかし、高値で売れなければ、採算的に成り立たないだろう。
そのリスクを負いながら、大規模化を決断し成功されているのは、生産もマーケティングも地域活動もできる、吉田さんの精力的な個人的キャラクターによっている気がする。誰もがまねできる農法ではないことは確かだ。
また、自然農法という、肥料代や農薬代などの生産コストがかからない農法で作った米や麦を、慣行農法の倍値以上の価格で消費者に届ける一方で、大規模化の推進という国の政策にも乗りつつ、補助金などをにらみながらの経営感覚をもっていることに感服した。
「米1町、麦1町、大豆から始めて、味噌等の加工品を作り、加価値を高めればやって行けるはず」という新規就農者へのアドバイスは的確である。
<栽培規模>
お米は13ha。麦は7ha。それぞれ裏作はしない。
ほ場は、基盤整備された一枚のものもあるが、一部、小面積のほ場も点在する。
<肥料>
堆肥はいれない。冬の間に田を耕し、稲ワラを耕うんし、すきこむ。残さの腐稙が早いほうが、微生物が多い良いほ場だというのが吉田さんの考えだ。また、無肥料でも肥料成分があることも、土壌分析で調べられている。
自然農法で作っていることを言葉で理解してもらうより、データで示した方が良いとの考えで、土壌微生物の多様性、活性化の調査を専門の会社に依頼されている。それは以下のような方法の検査である。
「良い土というのは、特別に有効な微生物が多数いるという事ではなく、活発な微生物が多様にいて、そのバランスがとれていること」との考えで土壌微生物の活性値と偏差値を出されている。
吉田氏の自然農法7年目のほ場は、活性値1,050,648、偏差値57.4という数値がでていた。
この土壌微生物の多様性・活性値の結果の写真を使って、目に見える形で土の良さをアピールし、作物を売り込んでいるそうだ。
<品種>
種は自家採種が基本で、お米はもともとはヒノヒカリ。
種取りはほ場を一カ所に決めている。13年自家採種をした種を譲り受けたので、21代目となる。塩水による選別もしない。
麦は ミナミノカオリ(強力粉)と農林61号(薄力粉)
<苗>
水稲苗はみのる式によるポット苗を3400枚育苗する。
株間は33センチ×26センチと一般よりかなり広くとって、風が通るようにしている。
<雑草対策>
米はジャンボタニシ。ジャンボタニシとの共存は、冬の間にほ場の高低差をなくすように耕うんし、田植え後すぐに水を落として、苗が小さい間はタニシが動けなくすること。また、畦から2条分は作付けせずに、畦の雑草を切り落とすと、そこにジャンボが寄ってきて稲を食べることが少なくなる。
麦の雑草対策としては、6月~9月の約4ヵ月間「夏みず田んぼ」と称して水を張っている。麦を刈った後そのまま水を貯めておき、代かきのように耕うんすると外来種以外の雑草はほぼなくなる。10月に水を落として、畑の状態で耕うんし、11月20日前後に播種をする。
「夏みず田んぼ」は雑草抑制効果があるdけでなく、ユスリカや糸ミミズ、タニシなどが大量に発生し、サギなどの鳥も訪れ、そこで展開される生物の多様性の様は目を見張るものがある。
自家採取の種に雑草の種が混じっていると、播種した後の雑草取りが大変なので、種の段階で選別する。昔は手で選別していたが、今年はお米を光で選別する機械を借りて、雑草の種を選り分けたところ、雑草が少なくなり、とてもいい。
<病害虫対策>
お米も麦も密植をしないことが病害虫の防除となる。
麦の病害虫は赤サビなどあるが、発生する事はない。米はウンカ。これも被害が大きくなることはない。
<販売・流通>
秀明会員800世帯を主とした個人への宅配と一般流通。
お米は800俵(48t)から900俵(54t)を扱っている。
麦は、加工をせず玄麦として動いた方が生産者としては楽なのだが、なかなか動かず、小麦粉に加工している。単価は600円/kg。麦の収量は、3俵(180kg)/10aが平均ということなので、7haで210俵(12.6t)となる。小麦粉にすると7割の歩留まりで、8,820kgの小麦粉。全て売れれば約500万円になるようだが、小麦粉はまだ全て売り切っていず、委託の倉庫に保管してあるということだった。